寄付金の勘定科目は?法人に必要な寄付金の分類と仕訳例まで解説

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監修者 宇都宮健太

「寄付金はどう処理すればいいんだろう?」「拠出金、見舞金、協賛金で扱いが違う?」
寄付金はどの勘定科目にすればよいか迷ってしまう仕訳のひとつではないでしょうか。

寄付金は、名目上は寄付金であってもその性質によって勘定科目が異なり、適切な勘定科目を選択し正しく仕訳する必要があります。さらに、法人の寄付金は税務上の取り扱いも複雑で、寄付先によって損金算入できる金額も変動するため、注意が必要です。

この記事では、法人の寄付金で使われる勘定科目や法人に必要な寄付金の分類、実際の仕訳方法、さらに法人とは異なる個人事業主での寄付金の扱いまで詳しく解説していきます。


1.見返りが発生しない場合のみ、勘定科目の「寄付金」を使用できる

寄付金とは、法人や個人が組織・団体などに見返りを求めずに譲渡する金銭・資産のことです。
そのため、勘定科目で「寄付金」を使用するのは、企業が事業に関係のない相手に対して見返りを求めず、無償で金銭や物品を提供した際の支出を計上する場合となります。
端的に言いますと、寄付金として計上できるのは見返りがない支出のみ、ということです。

具体的には、国や地方公共団体、公益社団法人などによる公共性の高い事業に対しての寄付が挙げられます。また、地域社会の福祉向上や災害復興支援のための義援金なども寄付金に該当します。

拠出金、見舞金、協賛金などにおいて名目上は寄付金であったとしても、その性質によって適した勘定科目を選択する必要があります


2.名目上は寄付金でも、見返りが発生する場合の勘定科目は交際費(接待交際費)か広告宣伝費

名目上は寄付金であったとしても、何らかの見返りが発生する場合の勘定科目は「交際費(接待交際費)」か「広告宣伝費」を使用します。

2-1.交際費(接待交際費)

交際費(接待交際費)は、企業が事業に関わる取引先に対して、金銭や物品を提供した場合の支出を計上する際に使う勘定科目です
企業が事業に関わる取引先へ金銭や物品を提供した場合は、将来的な売上につながる可能性があったり取引先との関係強化を見込める等により、見返りの発生する支出と考えることができます。
そのため、寄付金とは性質の違うものとして考えられるのです。

具体的には、取引先が主催するイベントへの協賛金、祝金、香典などが交際費(接待交際費)に該当します

2-2.広告宣伝費

広告宣伝費は、企業が行う金銭や物品の提供が、不特定多数の人へ向けた宣伝となるような場合の支出を計上する際に使う勘定科目です。
金銭や物品を提供することで企業名やサービスの宣伝につながれば、知名度が向上して将来的な売上増加が期待できると考えられます。
そのため、このような支出は寄付金とは性質の違うものとして捉えることができます。

具体的には、イベントに協賛金を支払うことでイベントのパンフレットやポスターに社名が掲載される、神社への寄付金を支払うことで提灯に社名が入り参拝客の目に止まる場所に設置される、といったような場合が広告宣伝費に該当します。


3.法人の寄付金は寄付先によって損金算入限度額が異なるため、分類が必要

1章では、寄付金の勘定科目について見てきましたが、ここからは法人が寄付金を支出した際に必要な分類について見ていきます。法人の寄付金は寄付先によって税法上の損金算入限度額が異なるため分類が必要です。寄付金の分類とその特性を理解し、適切に処理することは、企業の財務管理において重要なポイントとなります。

法人の寄付金は、法人決算の申告書提出時にさらに以下3種類の寄付金に分けて申告する必要があります。

寄付金区分詳細損金算入限度額
国や地方公共団体への寄付金・指定寄付金・国や地方公共団体が運営する国公立学校・図書館など対象とした寄付
・学校法人等を設立するための費用に充てられる企業等が支出する寄付

全額損金算入
特定公益法人などへの特定寄付金

・特定公益増進法人への寄付
・特定公益信託の信託財産とするための寄付
・認定NPO法人などへの寄付

各寄付先への合計額または(資本金など×当期の月数÷12×0.375%+所得金額×6.25%)×1/2のどちらか少ない方の額が損金算入
一般寄付金指定寄付金等や特定公益法人などへの寄付金に該当しない寄付(資本金など×当期の月数÷12×0.25%+所得金額2.5%)×1/4の範囲内で損金算入

では、3種類の分類について細かく見ていきましょう。

3-1.国や地方公共団体への寄付金・指定寄付金

国や地方公共団体への寄付金とは、国や地方公共団体が運営する公立学校、公立図書館などへの寄付のことです。また、法人が被災地の地方公共団体に設置された災害対策本部に対して支払った義援金国や地方公共団体への寄付金に該当します。

指定寄付金とは、財務大臣が指定した組織や団体への寄付のことです。指定寄付金に該当するのは、公益性と緊急性が高い一般に広く募集されている寄付金です。国宝の修復 、オリンピック開催 、赤い羽根の募金 、私立学校の教育研究等 、国立大学法人の教育研究等が指定寄付金に該当します。

国や地方公共団体への寄付金・指定寄付金の損金算入限度額

国や地方公共団体への寄付金・指定寄付金は、公益性・公共性が非常に高いため、全額が損金算入可能です。

3-2.特定公益増進法人などに対する特定寄付金

特定公益法人などへの特定寄付金とは、以下に該当する寄付のことです。

特定公益増進法人への寄付公益社団法人、公益財団法人、日本赤十字社、自動車安全運転センター、法律で規定された独立行政法人・学校法・社会福祉法人などへの寄付
特定公益信託の信託財産とするための寄付主務大臣の証明を受けた特定公益信託のうち、その目的が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与すると認められる一定の公益信託への寄付
認定NPO法人への寄付特定非営利活動法人のうち一定の要件を満たすものとして認められた認定NPO法人等に対する寄付で特定非営利活動に係る事業に関連するもの

引用|文部科学省寄付ポータルサイト:法人が寄付した場合の税制上の優遇措置

特定公益増進法人などに対する特定寄付金の損金算入限度額

特定公益法人などへの特定寄付金も、公益性・公共性が高いため、一定の限度額内で損金算入が認められます。具体的には、各寄付先への合計額または(資本金など×当期の月数÷12×0.375%+所得金額×6.25%)×1/2のどちらか少ない方の額が損金算入可能です。この上限を超えた金額については、一般寄付金に含めて損金算入が可能です。

3-3.一般寄付金

一般寄付金とは、指定寄付金等や特定公益法人などへの寄付金に該当しない寄付のことです。一般寄付金には、一般法人や自治会などへの寄付金が含まれます。

一般寄付金の損金算入限度額

一般寄付金は、公益性・公共性が他の分類に比べて低いため、損金算入できる額も低く抑えられています。具体的には、(資本金など×当期の月数÷12×0.25%+所得金額2.5%)×1/4の範囲内で損金算入可能です。この上限を超えた金額については、損金算入ができません。


4.寄付金が損金として認められる理由

法人の寄付金は原則として損金算入されます。法人はその存在自体が地域社会に密接に関わっているため、社会貢献活動としての寄付が認められており、その発展や支援に貢献することが期待されているためです。ただし、一定額を超える部分の金額は損金不算入となっています。
国税庁|No.5281 寄附金の範囲と損金不算入額の計算

寄付金の例としては、地域イベントへの協賛金や自然災害時の義援金などの地域社会への支援活動などが挙げられます。


5.法人の寄付金仕訳例

では実際に寄付金を仕訳してみましょう。

5-1.勘定科目が寄付金になる仕訳例

法人が地域の公立図書館へ寄付金10万円を現金で支払った場合の仕訳例です。

借方貸方
寄付金100,000現金100,000

5-2.勘定科目が交際費になる仕訳例

法人が取引先主催のイベントへ協賛金3万円を現金で支払った場合の仕訳例です。

借方貸方
交際費30,000現金30,000

5-3.勘定科目が広告宣伝費になる仕訳例

法人が神社に寄付金10万円を現金で支払った提灯に社名が入り参拝客の目に止まる場所に設置)場合の仕訳例です。

借方
貸方
広告宣伝費100,000現金100,000

6.個人事業主が寄付金の支払い・受け取りをした場合

ここからは、個人事業主の寄付金について見ていきます。法人と個人事業主では寄付金に関する仕訳方法や税務上の取り扱いが異なるため、注意する必要があります。

6-1.個人事業主が寄付金を支払った時の勘定科目と仕訳例

個人事業主が寄付金を支払った場合、仕訳で使う勘定科目は事業主貸です。事業主貸とは、事業用の資金を使って事業以外の支払いを計上する勘定科目です。個人事業主の寄付金は必要経費として計上できないため、この事業主貸で計上します。

では実際に個人の寄付金を仕訳してみましょう。

個人事業主が公益財団法人に10万円の寄付金を現金で支払った場合の仕訳例です。

借方貸方
事業主貸100,000現金100,000

特定寄付金は寄付金控除として所得控除の対象になる

事業主貸は、法人が寄付金を支払う際の損金算入のような会計処理はできませんが、確定申告の際に寄付金控除を受けることができます。
国税庁|No.1150一定の寄付金を支払ったとき(寄付金控除)

6-2.個人事業主が寄付金を受け取った時

個人事業主が寄付金を受け取った場合、個人から受け取った場合と法人から受け取った場合で扱いが異なりますので見ていきましょう。

①個人から金銭や物品を無償で受け取った場合は贈与になる

個人事業主が、個人から年間110万円を超えて金銭や物品を無償で受け取った場合、贈与として扱います。贈与を受けた額に応じて贈与税の申告が必要です。なお、贈与として譲渡されたものは所得税の課税対象からは除外されます。

②法人から金銭や物品を無償で受け取った場合は所得になる

個人事業主が、法人から金銭や物品を無償で受け取った場合、贈与ではなく所得として扱います。ただし、事業所得ではなく、一時所得の扱になる点に注意が必要です寄付を受けた額から特別控除額の50万円を差し引いて残った金額が所得税の課税対象となります。寄付を受けた額が50万円以下であれば、特別控除の範囲内なので課税されません。

※一時所得は分離課税ではなく総合課税の対象となります。寄付金以外にも一時所得がある場合は合計金額に課税されます。


7.寄付金に関するQ&A

最後に、寄付金に関するよくある質問を見ていきましょう。

7-1.寄付金は課税される?

寄付金は対価を得て行われる取引ではありませんので、消費税の対象外となります。ただし、購入した物品を寄付した場合は、課税仕入れとなりますので注意しましょう。

7-2.祈祷代は寄付金になる?

祈祷代は、宗教法人が行う公益性の高い活動に対する支援として支払われる場合には寄付金として認められることがあります。法人が祈祷代を支払う場合は、一般寄付金に該当し、損金算入には限度が設けられています。個人事業主が祈祷代を支払う場合は、事業主貸として処理するため経費対象外となります。

7-3.手形払の寄付金で未決済のものや未払寄付金については損金算入できる?

法人税法上、寄付金については法人の経理処理にかかわらず、現実に金銭等による支払いが行われたときにその支出があったものと認識します。したがって、手形払の寄付金で未決済のものや、未払寄付金については損金算入できません。また、寄付金が仮払いであった場合は、損金算入限度額の計算が必要になります。


8.仕訳業務にお困りの際は辻・本郷 税理士法人にご相談を

日々の取引で発生した売上や経費などを仕訳し記帳する業務は、事業を長く続けていくためにはとても大切です。しかし、寄付金のように特殊な分類や仕訳が必要なものは、取引量が多い企業にとっては大きな負担となります。

これらの業務を税理士へアウトソーシングすれば、業務の負担を軽くすることができます。お困りの際は辻・本郷 税理士法人にぜひご相談ください。


9.まとめ

ここまで、法人の寄付金で使われる勘定科目や法人に必要な寄付金の分類、実際の仕訳方法、さらに法人とは異なる個人事業主での寄付金の扱いまで詳しく見てきました。

この記事が、寄付金について理解を深める一助となれば幸いです。