
不動産の権利形態には「共有持分」と「区分所有」という言葉がありますが、その違いについてご存知ですか?
これらの言葉は、主に土地や建物を複数人で所有する際に使われる概念です。
不動産を所有する際には、主に以下の3つの形態があります。
不動産所有の3つの形態
①単独所有・・・一人が不動産の所有権を持つ
②共有(共有持分を所有)・・・複数人で一つの不動産を、共有名義で所有する
③区分所有・・・一つの建物を区切り、独立した各部分をそれぞれが所有する(マンションなど集合住宅に多い)
この記事では、「共有持分」と「区分所有」の違いをわかりやすく解説し、それぞれの権利形態による注意点をご紹介します。
記事を読んでいただくことで、区分所有不動産の相続や売却の予定がある方や、不動産の管理に悩んでいる方は最適な判断ができるようになります。
将来のリスクを避け、安心して不動産を活用するために、ぜひご一読ください。
目次
1. 共有持分と区分所有の違い
共有持分と区分所有では、不動産の所有形態が異なります。
不動産を購入・相続・投資する際などに主に関係してくる内容として、先にお伝えしたとおり、不動産所有には3つの形態があります。
不動産所有の3つの形態
①単独所有・・・一人が不動産の所有権を持つ
②共有(共有持分を所有)・・・複数人で一つの不動産を、共有名義で所有する
③区分所有・・・一つの建物を区切り、独立した各部分をそれぞれが所有する(マンションなど集合住宅に多い)
このうち「②共有」することによって得る、不動産における自分の持分を、共有持分と言います。
共有持分を持つ方は、共有不動産の全体を使用する権利を持つ一方で、共有不動産の一部を自分のみのものにすることはできません。
他方で「③区分所有」は、マンションの部屋などの専有部分は単独所有とし、マンションの廊下などの共用部分は他の区分所有者との共有にする形態です。
よって、②共有持分と③区分所有では、不動産の所有の形態が違う、ということになります。
共有持分と区分所有では、その違いを理解しないと、不動産の権利関係や将来的な売却・管理の場面で混乱してしまう可能性もあります。
具体的には、所有形態の違いにより、以下の表に示すような違いが生まれてきます。参考にしてみてください。
共有持分 | 区分所有 | |
所有の形態 | 1つの不動産を共有者複数人で所有する | 建物内の専有部分を個別に所有する |
使用方法 | みんなで話し合って決める | 自分の部分(専有部分)は自由に使える |
売買に関して | 持分のみなら売却することができるが、他の持分所有者の影響を受けやすい | 自分の専有部分を自由に売却できる |
トラブル | 他の共有者と意見が合わないと揉めやすい | 自分の専有部分に関しては自由にして良い |
2.共有持分と区分所有の特徴について
共有持分と区分所有では、先にお伝えしたように、所有形態が異なります。
それぞれがどのような特徴を持つ所有の形態なのか、具体的に知ることで、さらに二者の違いについて理解を深めていきましょう。
この章では、共有持分と区分所有、それぞれの特徴について解説していきます。
2-1. 共有持分とは
「共有持分」とは、1つの不動産(建物や土地)を複数人で共有名義で登記し、所有する場合に、それぞれが持つ持分割合を指します。
例えば、相続で3人の兄弟が1つの土地を3分の1ずつ共有名義で所有する場合、それぞれが3分の1の「共有持分」を所有することになります。
共有持分を所有していると、単独での不動産の使用や売却が制限されることがあり、他の共有者との合意が必要になるケースが多いのが特徴です。
2-2. 区分所有とは
「区分所有」とは、一つの建物が複数の部分に分かれている場合に、それぞれについて独立した所有権を持つという所有の形態です。
主に分譲マンションなどの集合住宅において適用されます。集合住宅においては、各戸の住居部分(専有部分)を個別に所有し、それ以外の共用部分は区分所有者全員で共有する仕組みになっています。
また、二世帯住宅の場合でも、完全分離型の住宅(玄関や浴室なども共有することなく、完全に別の住宅2戸で構成される住宅)であれば、各戸ごとに登記して所有するという場合には「区分所有」として所有することが可能です。
※完全分離型の住宅とは、棟が分かれている場合の他にも存在します。内部で行き来ができる間取りの住宅でも、鍵がかけられる扉で通路が仕切られている場合には完全分離型とみなされます。
2-3. 共有持分と区分所有の特徴の違いが重要になるシーン
特にマンションなどの集合住宅の一室を所有する場合、共有持分と区分所有の違いを理解することが非常に重要です。
なぜなら、マンションでは各住戸(専有部分)は個別に所有(区分所有)できますが、廊下やエレベーターなどの共用部分は「共有持分」として所有することになるためです。つまり、マンション購入者は「区分所有のつもりで購入したが、実は共有持分も所有している」という状況になります。
区分所有しているマンションを相続・売却する際には、区分所有法により専有部分と共用部分を分けて処分することはできず、一括して相続人や購入者に移転されます。
このように、共有持分と区分所有の違いを理解していないと、相続や売却の際にトラブルが発生する可能性があります。
特に、以下のような場面では、共有持分と区分所有の違いが重要になります。
① 不動産の利用や処分を考えるとき
・共有持分:売却や賃貸などの変更行為に対する意思決定には、原則として共有者全員の合意が必要。意見がまとまらないとスムーズに進められない。
・区分所有:専有部分は単独で売却・賃貸可能だが、共用部分の変更(例:エレベーターの設置)は他の区分所有者と調整が必要。
・共有持分かつ区分所有(AとBの二人で区分所有の建物を共有持分にするなど):専有部分についてはAとBの二人であれば、二人でそれぞれが共有することになるため、共有者全員(AとB)の合意が必要。共用部分については、AとBだけでなく、他の区分所有者との調整が必要。
② 共有者や隣人などと意見が対立したとき
・共有持分:共有者間で意見が対立すると、協議が難航し、最悪の場合は裁判に発展することもある。
・区分所有:マンションの管理規約などに基づいて解決するため、ルールが明確であることが多い。
・共有持分かつ区分所有(AとBの二人で区分所有の建物を共有持分にするなど):専有部分に関してはAとBの間で協議するべき。共用部分に関してはマンションの管理規約などに基づいて解決することとなる。
③ 資産管理や相続のとき
・共有持分:相続が発生する度に持分が細分化されていき、管理がどんどん複雑になりやすい。
・区分所有:専有部分ごとに権利を移転できるため、比較的スムーズな相続・売却が可能となる。
・共有持分かつ区分所有(AとBの二人で区分所有の建物を共有持分にするなど):例えば専有部分のうち、Aの共有持分が相続されるというような場合には、区分所有かつさらに細分化された共有持分を相続人が所有することとなり、管理が複雑になる。
④ 建物の維持管理をするとき
・共有持分:建物の維持管理には、共有者の過半数以上の同意が必要なため、迅速な対応が難しい。
・区分所有:管理組合が計画的に修繕を進めるため、比較的スムーズに維持管理ができる。
・共有持分かつ区分所有(AとBの二人で区分所有の建物を共有持分にするなど):例えば、マンション全体の維持管理のための修繕などは管理組合が規約に則って行うことになるが、専有部分の個人的な修繕などに関しては共有者の過半数以上の同意が必要(AとBの二人であれば、過半数は『2分の1.1以上』であるため、二人ともの同意が必要)。
共有持分と区分所有の違いを理解していないと、相続や売却の際に思わぬトラブルに巻き込まれることもあります。不動産をスムーズに活用・管理するためにも、事前にしっかり把握しておきましょう。
3. 集合住宅の区分所有者は区分所有の不動産について三種類の権利を持つ
ここまででお伝えした通り、共有持分と区分所有では特徴の違いがあります。そして、共有持分と区分所有を両方兼ね備えて所有するというケースも存在しています。
例えば、マンションなどの集合住宅の区分所有者は、購入した部屋(専有部分)の所有権を持つだけでなく、共用部分や土地についても権利を持ちます。このとき、区分所有者は共有持分(共用部分)も所有することになります。
具体的には、区分所有者が持つ権利は、以下の3つとなります。
・専有部分の所有権(建物)
・共用部分の共有持分(建物)
・土地の共有持分(敷地利用権)
※これらの所有権は、特に専有部分と共用部分について、集合住宅内の部位ごとに権利が存在しています。
この章では、区分所有者の持つ3つの権利について、それぞれ解説していきます。
3-1. 専有部分の所有権について
専有部分とは、区分所有者が単独で所有できる部分のことです。マンションの場合、各住戸(部屋)の内部が専有部分に該当します。
区分所有者は専有部分について自由に使用、売却、賃貸ができます。
ただし、管理規約に専有部分の用途制限(例: 住居専用)が定められている場合、その規約に従う必要があります。また、建物の構造上重要な部分を変更するリフォーム(例:間取り変更で耐力壁を撤去する)は制限されることがあります。
また、火災に遭ったときや修繕などに関しては、管理規約のルールに従う必要があります。
3-2. 共用部分の共有持分について
集合住宅、主にマンションのエントランス、エレベーター、廊下、屋根などの共用部分は、区分所有者全員で共有することになります。そのため、区分所有者は共用部分について「共有持分」の権利を持つことになります。
共用部分は区分所有者全員で共有しているため、単独で改修や売却はできません。
修繕や管理については、管理組合や管理規約で定められていることが主です。さらに、廊下やエレベーターの改修などは、管理組合の合意が必要となります。管理費や修繕積立金は、共有持分の割合に応じて負担することが主となります。
※また、専用使用部分に関しては、所有権は区分所有者全員の共有持分という扱いですが、特定の住戸の所有者のみが使用できるため、修繕や管理の責任は、管理規約で住戸所有者に課される場合が多いです。
3-3. 土地の共有持分(敷地利用権)について
マンションなどの集合住宅が建っている土地も、繰り返しになりますが、通常は区分所有者で共有することになります。このときの土地を利用する権利を、敷地利用権と言います。
また、敷地利用権と区分所有権を合わせた「敷地権」が1983年以降に建てられたマンションには存在し、これに基づいて土地と建物を一括で登記されているため、もしマンションを売却するという場合には、専有部分・共用部分の持分・土地の持分をすべてまとめて売却することになります。
4. 共有持分を所有している共有者は三種類の権利を持つ
3章では、区分所有者の持つ3つの権利について解説しました。
一方で、共有持分の所有者(共有者)にも、3つの権利が発生します。
不動産を共有持分で所有している場合、共有者には「変更(処分)」「管理」「保存」という3つの権利が生じます。
例外として、区分所有をしている集合住宅に関しては、共有持分である共用部分や土地の権利も、区分所有の管理組合などによる取り決めが優先される場合がほとんどですが、この章では、一般的な意味合いでの共有持分の所有者に与えられた3つの権利を解説していきます。
4-1. 変更(処分)行為について
「変更(処分)行為」とは、共有不動産の根本的な変更や、売却、賃貸などの処分をする行為のことを指します。
この行為には共有者全員の同意が必要で、共有者の一人が勝手に共用部分の取り壊し、土地の売却などをすることはできません。
売却の場合には、共有持分だけを単独で売却することは厳密には可能ですが、買い手が見つかりにくいケースが多いです。
4-2. 管理行為について
「管理行為」とは、共有不動産を適切に維持、管理するための行為を指します。例えばエレベーターの修繕、清掃業者の契約などが該当します。
管理行為をするためには、過半数の共有者の合意が必要です。
ただし、大規模な修繕や改築は「変更行為」に該当するため、全員の同意が必要になることもあります。
4-3. 保存行為について
「保存行為」とは、共有不動産を維持し、損害を防ぐための行為です。例えば雨漏り修理、破損した窓ガラスの交換などが該当します。
保存行為は、単独の共有者でも実行可能です。
これは、保存行為には建物の安全性や機能を維持するための最低限の修繕が含まれるためです。
5. 共有持分を所有していると、権利を行使する際に合意が必要になることがある
共有持分を所有する場合、売却や建物の修繕などの意思決定の際には共有者の合意が必要になるため、スムーズに取引や管理ができないというリスクがあります。
共有持分に関するトラブルとして、以下の①〜③のような例が挙げられます。
共有持分によるトラブルの例
①相続で共有者が増え、意見がまとまらず、管理や売却が困難になる
②共有者が行方不明になり、合意が取れず、売却や修繕が進まない
③他の共有者が不動産を利用し続け、持分所有者が実質的に権利を行使できない(裁判手続き(共有物分割請求)が必要になる)
共有状態を解消するには、持分の売却や、共有者からの持分の買取などの方法を検討する必要があります。
具体的な共有状態を解消するための7つの方法については、以下のURLの記事をご覧ください。
弁護士が一覧表で解説!共有名義7つの解消法と実行のハードル|辻・本郷Navi
6. 共有持分に関連したトラブルでお悩みの方はTH弁護士法人へご相談を
共有持分に関する問題は、権利関係の複雑さから法律的な知識が求められ、トラブルが長期化することも多々あります。
適切な解決策を知るために、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
共有名義についてお困りの方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度、TH弁護士法人へご相談ください。
辻・本郷グループの遺産分割・共有名義に詳しい弁護士が直接対応いたします。
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7. まとめ
共有持分と区分所有では、不動産の所有形態が異なります。
共有持分とは、一つの不動産を複数人の共有名義で所有する持分のことで、売却や管理などを単独では行うことができなくなるなどの制限があります。
一方で、区分所有はマンションなどの集合住宅でよく見られる所有形態で、専有部分を単独で所有できるというものです。
ただし、区分所有をしているだけでも共用部分や土地は共有となっているため、共有持分の権利が発生することは覚えておいてください。
共有持分を所有していると、相続や売却の際などにトラブルの元となる場面が多いので、共有不動産の問題があれば、専門家である弁護士に相談するのが得策です。
記事を読んで不動産の権利関係を正しく理解して、損のない不動産運用ができるように準備していきましょう。