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日々の仕訳を正しく行っているのになぜ決算整理仕訳が必要なのか、疑問を持つ方もいるかもしれません。しかし残念ながら、いくら正しい仕訳を行っていても、事業年度をまたく経費や売上発生があると期中の仕訳帳と決算時の金額にズレが生じてしまいます。
事業年度末に「帳簿上の数字」と「決算時の数字」を合わせるための調整が、決算整理仕訳です。 決算整理仕訳には売上原価の計算、減価償却費の計上、貸倒引当金の繰入、などの仕訳があります。
決算整理仕訳に苦手意識を持つ方のために、決算整理仕訳の全体像と個別の仕訳例をご紹介していきます。
目次
1.決算整理仕訳とは
決算整理仕訳は、基本的に期中の取引を整理したあとでないと行えない、特別な仕訳です。決算のタイミングで、期中の仕訳と決算時の数字のズレを調整します。
また、決算仕訳は決算業務の一部で、損益計算書や貸借対照表をより正確に作成するために必要な作業です。
<決算の流れ>
- 試算表の作成
- 決算整理仕訳
- 精算表の作成
- 損益計算書・貸借対照表の作成
例えば、年契約で期をまたぐ取引や、売り上げは立っているけれども入金が次期になる取引などは、決算のタイミングで実情に合うよう調整しなければなりません。また、保有している有価証券の価値も、決算時の金額で評価します。
数字の調整が主たる目的ですが、期中の仕訳の漏れや重複の発見にもつながります。
2.決算整理仕訳の流れ
決算整理仕訳の一般的な流れと概要をご紹介します。
<一般的な決算整理仕訳の流れ>
- 売上等の漏れがないか確認する
- 現金・預金の過不足がないか確認する
- 当期中の費用を確認する
- 棚卸資産を計上する
- 固定資産の償却処理を行う
- 貸倒引当金を計上する
- 有価証券の期末時価を確認する
- 仕訳帳の反映と総勘定元帳に転記を行う
2-1.売上等の漏れがないか確認する
決算日時点における売掛金、買掛金を確認します。大きく、次の2つをチェックします。
- 事業年度内に漏れや誤り、二重仕訳等がないか
- 発生主義にのっとって当期に発生したものは当期に計上されているか
発生主義の場合、商品を販売した場合は納品日(※)に売上を計上するのが一般的です。例えば3月末の会社で、「3月25日に納品し、入金は4月末」といった場合、4月ではなく3月の売上で計上します。なお、入金日に売上を計上する方法は現金主義と呼ばれます。
※出荷日や検収日に計上することもあります
買掛金に関しても同様に発生主義で処理がなされているか確認します。
2-2.現金・預金の過不足がないか確認する
現金・預金の残高を確認し、帳簿と一致するか確認します。ズレがある場合は、計上漏れや数字の記載ミスがある可能性が高いです。金額が小さい場合は利息や手数料の計上漏れ、金額が大きいときは小切手を受け取った相手方が、小切手を換金していない「未取付小切手」などが考えられます。
2-3.当期中の費用を確認する
当期の費用が正しく計上されているか確認します。来期に発生する費用や売上について、当期で受け取っていたとしてもそれは来期に計上すべきものです。次のような場合は、決算時点の状態に合わせる調整が必要です。
- 前払費用 すでに代金を支払っているが、商品やサービスの受け取りは来期になる
- 前受収益 すでに代金を受け取っているが、商品やサービスの提供は来期になる
- 未払費用/未払金 すでに商品やサービスの提供を受けているが、支払いが来期になる
- 未収収益 すでに商品やサービスの提供を行ったが、代金の受取が来期になる
2-4.棚卸資産を計上する
決算時点の棚卸資産を算出することで、売上原価を算出します。
- 棚卸資産とは 販売のために仕入れた商品等の在庫
- 売上原価とは 販売した商品・サービスのためにかかった費用
期首の在庫と当期仕入高の合計から期末の在庫を差し引くことで、当期に売り上げた商品の原価(仕入高)だけを計上します。
2-5.固定資産の償却処理を行う
減価償却とは、固定資産の取得にかかった費用を資産の耐用年数に応じて費用を分割計上していくことです。対象の資産は車、機械、オフィス家具、建物など幅広いです。
償却方法には毎年決まった額を償却(費用計上)していく定額法と、残存価格に所定の償却率を乗じる定率法などの方法があります。
2-6.貸倒引当金を計上する
貸倒引当金とは、取引先の倒産等によって債権回収が不可能となる事態に備えるための費用です。あらかじめ損失額として計上しておくことで、債権回収ができなくなったときのダメージを軽減させます。
2-7.有価証券の期末時価を確認する
有価証券は価値が変動するため、期末時点の時価に応じた評価替えを行います。
2-8.仕訳帳の反映と総勘定元帳に転記を行う
決算整理による追加仕訳を仕訳帳と総勘定元帳に反映させます。損益と経費がより正確になり、利益が確定します。
3.現預金の不一致があった場合の決算整理仕訳
現金の不一致があった場合は、過不足を調整する仕訳を行います。出来る限り原因を突き止めるのが原則ですが、少額の不一致であれば雑損失、雑収入で処理することが可能です。
<仕訳例>
- 帳簿より現金が20,000円多かった。うち19,800は売掛金の計上漏れであることが判明したが、残り200円の原因が不明
借方 | 貸方 | ||
現金 | 20,000 | 売掛金 | 19,800 |
雑収入 | 200 |
4.経過勘定科目の決算整理仕訳
前払費用・前受収益・未払費用/未払金・未収収益の仕訳例は次の通りです。
4-1.前払費用 すでに代金を支払っているが、商品やサービスの受け取りは来期
支払い時に費用計上しているとしても、期中に商品やサービスの提供を受けていなければ、費用を繰り延べしなければなりません。
<仕訳例>
- 当期中に事務所の火災保険料12,000円(1年分)を支払っているが、うち6ヵ月分は来期分となる
すでに火災保険料として経費計上をした金額のうち、6ヵ月分(6,000円)を前払費用に繰り延べます。
借方 | 貸方 | ||
前払費用 | 6,000 | 火災保険料 | 6,000 |
4-2.前受収益 すでに代金を受け取っているが、商品やサービスの提供は来期
代金受け取り時に収益として計上しているとしても、期中の商品やサービスの提供を受けていない場合は、収益を前受収益に振り替えなければなりません。前受収益は、商品やサービスの提供義務が課される状態のため、負債勘定です。
<仕訳例>
- 当期中に1年間の保守点検サービスを契約して、1年分(120,000円)の代金を受け取っているが、6ヵ月分は来期にサービスを提供する
代金受け取り時に1年分(120,000円)の売上を立てていますが、未提供の6カ月分(60,000円)は前受費用に振り替えます。
借方 | 貸方 | ||
売上 | 60,000 | 前受収益 | 60,000 |
4-3.未払費用/未払金 すでに商品やサービスの提供を受けているが、支払いが来期
未払費用や未払金は、ざっくり「後払い」のことです。ただし、支払いが来期になる場合は決算時に計上しなければなりません。なお、「未払費用」と「未払金」の違いは次の通りです。
- 未払費用 継続的な取引で商品やサービスの提供が途中
- 未払金 単発の取引で、商品やサービスの提供が完了している
未払費用の具体例としては、支払利息があります。例えば借入金の利息について、半年に一度の支払いであるといったケースです。このケースで仕訳例を見ていきます。
<仕訳例>
- 利息の支払日はまだだが、決算時点で利息の計算期間は4カ月経過している(4か月分の利息は4,000円とする)
経過分のみ未配利息で計上します。
借方 | 貸方 | ||
支払利息 | 4,000 | 未払利息 | 4,000 |
なお、未払金の場合は商品やサービスの提供は完了しているので、決算時に未払全額を全て未払金で計上します。
4-4.未収収益 すでに商品やサービスの提供を行ったが、代金の受取が来期
未収収益は本来当期で受け取るべき収益ですので、決算時に「未収収益」として計上します。これから代金を受け取るので、資産勘定です。
例えば、例えば貸付金の利息について、半年に一度の支払いを受けるといったケースです。このケースで仕訳例を見ていきます。
<仕訳例>
- 利息の受取日はまだだが、決算時点で利息の計算期間は4カ月経過している(4か月分の利息は4,000円とする)
借方 | 貸方 | ||
未収収益 | 4,000 | 受取利息 | 4,000 |
5.売上原価の決算整理仕訳
売上原価は単純に当期仕入高から計算するわけではありません。「期首商品棚卸高+当期仕入高-期末商品棚卸高」によって算出します。
売上原価の計算式 期首商品棚卸高+当期仕入高-期末商品棚卸高
決算整理仕訳においては、期首商品棚卸高を費用に、期末棚卸金額を資産へ振り替えます。
<仕訳例>
- 期首商品棚卸高が15万円で、当期仕入高が90万円、期末商品棚卸高が10万円
借方 | 貸方 | ||
仕入高 | 150,000 | 商品 | 150,000 |
商品 | 100,000 | 仕入高 | 100,000 |
売上原価は15万+90万-10万=95万です。また、当期仕入高に関しては期中に仕訳を行っているので、決算整理仕訳は不要です。
6.減価償却費の決算整理仕訳
固定資産の減価償却では、経過年数に応じて減価償却費を分割計上します。減価償却費の仕訳方法には直接法と間接法があります。
- 直接法
固定資産の取得価額から直接減価償却費を減額する - 間接法
減価償却累計額という資産控除科目を使用。減価償却費を減価償却累計額に集計して、間接的に資産より減価償却費の合計額を減額する
では、機械設備に対して80,000円の減価償却を行うケースで、仕訳例を見ていきましょう。
<仕訳例:直接法>
固定資産から直接、減価償却費を減額します。
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 80,000 | 機械設備 | 80,000 |
<仕訳例:間接法>
減価償却累計額に計上することで、減価償却費を集計します。
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 80,000 | 減価償却累計額 | 80,000 |
7.貸倒引当金の決算整理仕訳
貸倒引当金はあらかじめ貸し倒れの損失額を予測し、計上しておくものです。計算方法は一括評価と、個別評価の2種類があります。
- 一括評価
「期末の債権額 」に所定の繰入率(※)を乗じて算出する方法 - 個別評価
債権ごとの評価で算出する方法。取引先が更生手続開始の申立てや更生計画認可の決定などを受けているといった所定の場合に選択可能
※実績繰入率と法定繰入率があります。両方を計算し、高くなる方を選択可能です。
貸し倒れリスクが特に高い債権は個別評価のほうが安心できるかもしれませんが、個別に算出しなければならず、場合によっては税務調査で引当金が認められない可能性もあります。特に事情がない限りは、一括評価を選択するのが一般的です。
<仕訳例>
・一括評価により、100,000円を貸倒引当金として計上する
借方 | 貸方 | ||
貸倒引当金繰入額 | 100,000 | 貸倒引当金 | 100,000 |
8.有価証券の決算整理仕訳
期末時点の評価額に応じた調整を行います。具体的には期首と期末の評価額を比較し、プラスに変動していれば有価証券評価益を、マイナスの変動であれば有価証券評価損で調整します。これを時価の評価替えと言います。
<仕訳例>
- 取得価額が50,000円だった有価証券の評価額が20,000円に下落。評価損を計上する
この場合は、損失分だけ有価証券を減少させます。
借方 | 貸方 | ||
有価証券評価損益 | 30,000 | 有価証券 | 30,000 |
評価額が上昇した場合は有価証券を借方、有価証券損益を貸方にして評価替えを行います。
9.決算整理仕訳を成功させるポイント
決算整理仕訳を無駄なく行うポイントを3つご紹介します。
9-1.ダブルチェックで人的ミスを早期発見する
期中の仕訳と決算整理仕訳はダブルチェックします。どんなに慎重に行っても人的ミスの可能性はゼロにすることはできません。しかし、ミスが発生した時に一番怖いのはミスに気が付かず放置されてしまうことです。複数の目でチェックしてミスを早期発見すれば、リカバリーもしやすいです。
また、決算整理仕訳は期中の仕訳を土台とした仕訳なので、ダブルチェックのさいは決算整理仕訳だけででなく、期中の仕訳にも注意を払うようにします。
9-2.前期比較で計上漏れを防止する
決算整理仕訳の計上漏れを防止する効果的な方法が、前期比較です。前期の決算整理仕訳を確認し同様の手順を行うことや、数字を比較しながら乖離の大きいところはないかを調べます。前期と項目が同じになることが多いので、効率的に漏れを探せることでしょう。
9-3.会計ソフトを活用する
会計ソフトは、おかしな仕訳のときにチェックマークが入ったり、気になる勘定科目を簡単に検索できるといった機能があります。会計ソフトの機能を使いこなすことで、決算整理仕訳の効率を高めることができるでしょう。
また、会計ソフトの多くはアップデートによって法改正に適宜対応します。会計ソフトのフォーマットが更新されることで、古い法令で誤った処理をしてしまうリスクを軽減できます。
10.決算整理仕訳が終わったら次のステップへ
決算整理仕訳が終わったら総勘定元帳への転記、精算表の作成を行い、問題がないか最終確認をします。そこで問題がなければ、ゴールの決算書作成に進みます。
なお、決算整理仕訳で繰り延べしたり評価替えしたりした収益や費用は、翌期首に元に戻さなければなりません。これは「再振替の仕訳」と呼ばれる仕訳です。決算はひとつのコールではありますが、決算が終わっても仕訳作業は続く点に注意します。
11.決算整理のお悩みは辻・本郷 税理士法人へご相談ください
決算整理仕訳は会社の規模や事業形態によって仕訳量や仕訳内容が変わります。年に1回の作業なので、慣れるまでに時間がかかるかもしれません。
また、決算整理仕訳をきっかけに、期中の仕訳にミスが多く見つかると、想定以上の時間がかかることもあります。決算整理仕訳や決算整理にお悩みの際は、多様な相談実績を持つ辻・本郷 税理士事務所へご相談ください。
なお、本文中でもお伝えしましたが、決算整理仕訳は期中の仕訳が土台です。決算間近ではなく、早い段階でのご相談、顧問契約のご検討をおすすめします。
12.まとめ 決算整理仕訳は決算書作成の要
決算整理仕訳を丁寧に行うことで、期中の仕訳に誤りがあったときでも、修正しながら決算を進めることができます。決算整理仕訳を理解することで、より正確な仕訳を行えるでしょうし、作業スピードの向上にも寄与するでしょう。
決算整理仕訳への苦手意識をお持ちの方は、本記事で決算整理仕訳への知識を深めてください。