共有持分をいち早く放棄すべき理由!具体的手順も解説

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監修者 新井健一郎

共有名義不動産の持分があるけれど、手放してしまいたい。いっそ放棄する手段を取るのはどうだろうか、とお考えではありませんでしょうか。

共有持分の放棄は、共有名義を簡単に好きなタイミングで解消することができるという大きなメリットのある手段の一つです。

とはいえ、共有名義を解消する手段は全てで7つあります。他の手段もご紹介しますので、ご検討の上、判断してみてください。

共有持分の放棄のポイントは『早い者勝ち』であるという点です。

なぜ放棄は早い者勝ちなのか?デメリットはあるのか?具体的手順や気をつけるべきことは何か?といった疑問にもこの記事でお答えしていきます。

記事を参考に、共有名義状態を適切な方法で解消していくために、持分の放棄という手段について学んでいきましょう。

1. 共有持分の放棄とは共有名義解消法の一つ

共有持分の放棄とは、共有名義不動産について、共有者の一人が自分の持分を放棄することであり、共有関係の解消方法の一つです。

他の共有者の同意なしで、放棄する側のタイミングでいつでも自由に行うことが認められている方法です。

放棄された共有持分は他の共有者へ移動するため、他の共有者からしても損にならないため、他の共有者から後ろ指をさされることもなく、穏便に共有名義を解消できます。

ただし、共有持分を放棄した場合、共有持分の価値に応じたお金や不動産など、手元に何も残りません。

また、放棄の登記をする際には、原則として、他の共有者の協力も必要となるため、完全に自分の気持ちだけで自由にできるわけではありません。さらに、自分が持分を放棄した後、他の共有者は持分が増えるため、場合によっては他の共有者は増えた持分について贈与税を支払う必要が出てきてしまうことがあります。

このように、共有持分の放棄は、共有名義の解消法としては一長一短ある方法です。

2.共有持分の放棄を選択すべきケース、すべきでないケース

共有持分の放棄は、共有不動産に明らかに価値がないケースで選択すべき方法になります。

なぜなら、放棄をしてしまうと、共有持分の価値に応じたお金や不動産など、手元に何も残らないためです。そのため、不動産に価値があるなら他の方法を取る方がメリットがあり、適していると言えますが、不動産に価値がないなら、放棄をすることにさほどデメリットが生じません。

実は、共有名義を解消する方法は、全部で7つあります。

  1. 共有者全員で第三者に売却する
  2. 分筆してそれぞれの単独名義にする
  3. 他の共有者から持分をすべて買う
  4. 自分の持ち分を他の共有者に売る
  5. 共有物分割請求訴訟をする
  6. 第三者に自分の持ち分だけを売る
  7. 自分の持分を放棄する

上記のうち、7が共有持分の放棄にあたります。

7つの共有名義解消法を確認して、あなたの場合はどの方法が最良かを検討してみてください。

7つの解消法の詳細は以下のページにありますので、じっくりご確認ください。

https://www.ht-tax.or.jp/sozoku-guide/joint-names-resolution#1-7

3.共有持分を放棄することのメリット

2章を読んで、共有名義解消法として共有持分の放棄が自分には適していると思われた方に、共有持分の放棄のメリットを今一度ご紹介します。

3-1.相続放棄と違い、共有持分以外の遺産相続は可能である

相続放棄では、死亡した方の残したすべての遺産を放棄することで、放棄した者は最初から相続人ではなかったことになります。「相続はすでに済ませてしまった(相続した後の共有名義の不動産を処分したい)」という方や「共有名義の不動産の共有持分は要らないので放棄したいが、他の財産は相続したい」と感じる方にとってはメリットとなるでしょう。

3-2.共有者との意思疎通が難しいときに便利である

他の共有名義の解消法と比べると、比較的、他の共有者と関わらずに済む点もメリットです。

ただし、放棄の登記をする際には、原則として、他の共有者の協力は必要となるため、ご注意ください。

3-3.好きなタイミングで放棄できる

共有持分を放棄するための条件などが特にないため、あなたの好きなタイミングで放棄を行うことができます。ただし、放棄の登記をする際には、原則として、他の共有者の協力は必要となるため、ご注意ください。

3-4.共有名義状態から比較的簡単に抜け出せる

「3‐2」「3-3」のように、比較的手続きを進めやすいため、結果として早期の共有名義の解消に繋がります。共有名義状態をずるずると長期間続けることで、不必要に維持費や管理費がかかってしまうという方にとっては、持分の放棄は共有名義状態から解放される易しい方法です。これも、メリットと言えるでしょう。

4.共有持分を放棄することのデメリット

3章に対して、共有持分の放棄という選択肢のデメリットは何でしょうか。振り返ってみましょう。

4-1.他の共有者に不満を抱かれる可能性がある

共有持分を放棄すると、相続税法との関係では、放棄した持分は「他の共有者に贈与する」と扱われます(他の共有者が複数いる場合には、放棄された持分は、それぞれ他の共有者が所有する共有持分の割合に従って、帰属することになります)

つまり共有持分が他の共有者に移動するため、相続税法上、「贈与を受けた」と扱われた他の共有者は場合によっては贈与税を払わねばならない可能性が生じます。よって、そのことで贈与税を払わねばならなくなった他の共有者から不満を抱かれてしまうおそれがあります。

4-2.他の共有者に先を越されたら放棄できなくなる

共有持分の放棄はあなたの意思で任意のタイミングにより可能ですが、自分より先に他の共有者が放棄し、自身が最後の一人になってしまった場合は、その不動産はあなたの単独所有不動産になっているため、所有権の放棄ができなくなってしまいます。

共有持分の放棄は、放棄の意思表示を示した後で持分放棄の登記申請を行うことで成立します。これらを他の共有者すべてに先に行われてしまうと、放棄という選択肢は取れず、不動産の売却や贈与といった手段でしか手放せなくなってしまいます。注意しましょう。

4-3.共有持分移転登記が必要なため、基本的に他の共有者の協力が必要

共有持分の放棄自体には他の共有者の同意が必要ないとはいえ、実際に放棄する手順に含まれる『共有持分移転登記』の際には、原則として、他の共有者に協力してもらわなくてはなりません。結局他の共有者と関わらなければならない方法だということは念頭に置いておいてください。

4-4.共有持分の現金化はできない

放棄してしまうわけなので、あなたの共有持分は一銭にもなりません。手元に現金は全く入りませんので、放棄する上ではこの点も覚えておいてくださいね。

5.放棄希望者が共有持分をいち早く放棄すべき理由

4-2でお伝えした通り、共有持分の放棄はいわゆる『早い者勝ち』です。詳しく説明していきます。

まず、共有持分は他の共有者に移転するかたちで放棄されます。共有持分の放棄により、放棄した持分が他の共有者に帰属するということです。

そのため、他の共有者が次々に持分を放棄し最後の一人になってしまった場合、自身が単独で不動産を所有していることとなります。

不動産の単独所有者は、放棄の登記をすることができません。ゆえに、共有持分の放棄は早い者勝ちといわれています。

さらに、共有持分の放棄は共有者の意思表示だけで基本的には行うことができてしまいます。

共有持分の放棄は、相手方のない単独行為とされていますので、このときの放棄の意思表示は、相手方、すなわち他の共有者に到達する必要はありません。言い換えれば、共有者は誰もがいつでも共有持分を放棄する権利を持っているということです。

あなた以外の共有者がひとたび意思表示をしたならば、共有持分の放棄はすでに始まっているのです。

これもまた、共有持分の放棄が早い者勝ちである理由です。

6.共有持分を放棄する具体的手順

それでは、実際に共有持分を放棄する手順をご紹介していきます。

6-1.他の共有者に対して放棄の意思表示をする

持分放棄の意思表示のために、まず他の共有者に口頭で放棄したい旨を伝えます。その後、意思表示したという事実を残すために内容証明郵便などを利用し、他の共有者に書面というかたちで再度意思表示しましょう。

書面を発送する前にあらかじめ口頭で意思表示をすることは、必須ではありませんが、いきなり内容証明郵便が届くと他の共有者を驚かせてしまい、その後の登記への協力を得づらくなるリスクがあるため、忘れずに行うことをおすすめします。

内容証明郵便は、放棄関連でトラブルが起こった際に裁判所に提出する証拠書類になります。有効な証拠として扱えるように、弁護士や司法書士に依頼して送ることがおすすめです。

6-2.持分放棄の登記を申請する

共有持分の放棄に関する登記を『共有持分移転登記』と言います。この際には共有者の協力が欠かせませんので、放棄の意思表示をするときに、登記に協力してもらえるようにお願いしておいてください。

a.申請する場所は共有不動産の所在地を管轄する法務局

他の共有者に対して持分移転登記を申請するとき、持分放棄者と持分を取得する他の共有者が、不動産の所在地を管轄する法務局に共同で登記申請することになります。

b.放棄する方が用意するもの

・登記申請書

・登記原因証明情報

・登記識別情報

・固定資産評価証明書

・ご自身の印鑑証明書

・委任状(代理人申請の場合)

・実印

c.他の共有者に用意してもらうもの

・他の共有者の住民票

・本人確認資料

・認印

また、参考に、法務局による不動産登記申請書提出前のチェックリストがあります。ご確認ください。

https://houmukyoku.moj.go.jp/saga/content/001353314.pdf

6-3. 共有持分移転登記ができない場合には、裁判所に登記引取請求訴訟を提起する

どうしても他の共有者の協力が望めないために登記申請ができない場合はどうしたら良いのでしょうか。

共有持分の放棄に関する登記の際に他の共有者から協力を得られない場合、現実に起こった持分放棄と登記記録が合致しなくなります。その場合、持分を放棄した登記の当事者から他の共有者に対して、「現実に起こった持分放棄に合わせた登記手続をしなさい」と請求する権利が認められています。

裁判において、この権利を主張することを『登記引取請求訴訟』と言います。裁判所から「現実に起こった持分放棄に合わせた登記手続をしなさい」と判決を出してもらうための訴訟で、この確定判決を得られると、持分の放棄者が単独で登記申請できるようになります。

ただし、訴訟、つまり裁判沙汰にすることになるので、費用や時間もかかり、他の共有者との関係が悪化する可能性もあります。

そこまでの覚悟がある場合に登記引取請求訴訟を行うことを検討すべきでしょう。

7.共有持分を放棄する際に気を付けておきたいポイント

共有持分を放棄する前に確認しておきたい事項についてまとめました。ここまで読んで、自分のケースには共有持分の放棄が適していると感じられた方はしっかり確認しておいてください。

7-1.登録免許税がかかる

登記手続きをすると、登録免許税がかかります。

登録免許税を納税するのは、共有持分の放棄をする方です。ただし、共有者間の話し合いで誰が負担するかを決めることもあるので、全員が納得できるようによく話し合いましょう。

登録免許税の金額の計算には、固定資産税評価額が関わってきます。

 7-2. 固定資産税はその年の11日時点の所有者に対して課税される

共有持分を放棄した時期が11日以降であれば、その年のうちに放棄をした方にも固定資産税の納税義務があります。固定資産税はその年の11日時点で不動産を所有している方に対して課税される税金だからです。

ただし、こちらも、共有者間での話し合いにより、放棄した方の分は日割り計算で精算することが多いです。

7-3. 事案に応じて、必要書類の追加・変更が必要となる場合がある

登記記録上の住所に変更がある場合や、登記記録上の氏名に変更がある場合などには書類が追加で必要になったり、内容を変更する必要が生じたりします。気をつけておきましょう。

8.まとめ

いかがでしたか?

あなたの場合には、共有名義を解消する方法として『共有持分の放棄』という選択肢は適していたでしょうか。

適していない場合はまた別の方法を選び、適していたという場合には、この記事をよく読んで、一緒に放棄の手続きを行っていきましょう。

記事の要点は、

・共有持分の放棄は簡単に共有名義を解消できる方法の一つ

・早い者勝ちとなるため、放棄したい場合は即行動すべき

・登記は、原則として他の共有者の協力がないとできないため注意

・法務局で登記申請ができる

以上となります。

9.共有名義のことでお悩みの方は弁護士に相談を

本記事では、共有名義のトラブルに詳しい弁護士が、共有名義状態から解放される一つの手段として、共有持分の放棄という方法について解説しました。

これから共有名義にすることをご検討の方や、相続のことでトラブルがあり、共有名義を解消したいという方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度ご相談ください。

共有名義状態には、土地の資産価値を著しく下げてしまう、相続時のトラブルを招くなどのリスクがあります。

できることなら共有名義を避け、それぞれが単独名義で相続できる遺産分割がのぞましいでしょう。

辻・本郷グループの遺産分割・共有名義に詳しい弁護士が直接対応いたします。

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