自社で書籍を購入したら、勘定科目は「新聞図書費」と思い込んでいませんか。実は書籍を経費とする場合の勘定科目は複数あります。また、電子書籍を購入した場合や社員が業務に必要な書籍を自発的に購入した場合に経費とできるかどうか、悩むケースもあるかもしれません。
そこで本記事では業務に関連する書籍を購入した場合の勘定科目と費用計上する際の注意点を幅広くご紹介します。
目次
1.事業に関わる書籍代は費用計上できる
事業に関わる書籍、新聞、雑誌などを自社で購入した場合は費用計上が可能です。また、事業に直結する専門書や業界新聞だけでなく、従業員が休憩時に読むために購入した雑誌や漫画も費用に計上できる可能性があります。さらに、書籍の金額によっては固定資産になる可能性もあります。
目的や価格に応じた勘定科目が必要となるため、次章で主な勘定科目を見ていきましょう。
2.書籍を購入したときの主な勘定科目
業務に関連する書籍を購入したときは、「新聞図書費」で処理することが多いかもしれませんが、書籍購入の勘定科目はそれだけではありません。それぞれ具体例と仕訳をご紹介します。
- 業務に関連する知識を得るための書籍を購入した場合【新聞図書費】
- セミナーや研修のために書籍を購入した場合【研修費】
- 福利厚生のために書籍を購入した場合【福利厚生費】
- 単価が10万円以上の書籍を購入した場合【工具器具備品】
- ごくまれで金額も少額な場合【雑費】
2-1.業務に関連する知識を得るための書籍を購入した場合は【新聞図書費】
新聞図書費で計上できるのは、業務(事業)で必要な知識を得るために購入した費用で、次のようなものが該当します。
- 書籍 ビジネス関連のノウハウ本や専門書、資格本など
- 新聞 業界新聞や経済新聞など
- 資料 統計資料や住宅地図
なお、会社で購入した場合だけでなく社員が個人で購入した書籍等を対象とすることも可能です。ただしその場合は対象範囲や上限などの社内ルールを整え、社員が迷いなく経費申請できるようにする必要があります。
<仕訳例>
経理部で3,000円の会計学の書籍を購入した
借方 | 貸方 | ||
新聞図書費 | 3,000 | 現金 | 3,000 |
2-2.セミナーや研修のために書籍を購入した場合は【研修費】
研修費で計上できるのは、事業に関連するセミナーや研修のために購入した書籍の費用で、主にセミナーや研修のテキスト代が該当します。
<仕訳例>
研修で使用するテキスト(1,000円)を50冊購入した
借方 | 貸方 | ||
研修費 | 50,000 | 現金 | 50,000 |
2-3.福利厚生のために書籍を購入した場合は【福利厚生費】
福利厚生費で計上できるのは、社員の福利厚生のために購入した費用で、代表例は福利厚生を目的とした施設におく書籍や雑誌です。
またそのほか、スキルアップや資格取得のために購入した書籍代は会社が費用を負担するといった福利厚生制度を設けるケースもあります。
<仕訳例>
社員の休憩室に置く雑誌を3,000円分購入した
借方 | 貸方 | ||
福利厚生費 | 3,000 | 現金 | 3,000 |
2-4.単価が10万円以上の書籍を購入した場合は【工具器具備品】
工具器具備品で計上できるのは単価が10万円以上の書籍です。専門書、百科事典や図鑑などが該当する可能性があります。代表的なのは、複数巻の辞典や図鑑をセット購入して10万円以上になるケースです。また、書籍購入に送料がかかった場合は送料を書籍代に含めることが可能です。
<工具器具備品とは>
「1個または1組の取得価額が10万円以上の工具、器具、備品」を指します。
パソコン、業務用デスク、スチール棚など、多くの物品が対象です。
また、単価が10万円以上となる場合は固定資産として減価償却することに注意します。減価償却は購入時に一括で経費に計上するのではなく、耐用年数に応じた数年で経費計上しています。
ただし、次の2つの場合は3年間で分割、もしくは一括償却が可能です。
2-4-1.取得価格が10万円以上20万円未満の場合【3年間で均等償却が可能】
一括償却資産に該当するため、3年間で均等に償却することが可能です。なお、年度の途中で取得した場合でも、減価償却費の月割計算は不要です。
<仕訳例 一括償却資産の場合>
事業に関連する百科事典をセットで購入し、総額15万円を支払った
(購入時)
貸方 | 借方 | ||
工具器具備品 | 150,000 | 現金 | 150,000 |
(期末)
15万円を3年均等に償却するため、次のように減価償却費を計上します。
貸方 | 借方 | ||
減価償却費 | 50,000 | 工具器具備品 | 50,000 |
ここでは詳細が分かるように「工具器具備品費」の勘定科目を使用していますが、「一括償却資産」としても間違いではありません。
2-4-2.取得価格が30万円未満の場合【購入時に一括償却が可能】
取得価格が30万円未満の場合は、少額減価償却資産の特例として一括償却(経費計上)が可能です。
<仕訳例 少額減価償却資産の場合>
事業に関連する百科事典をセットで購入し、総額15万円を支払った
(購入時)
借方 | 貸方 | ||
工具器具備品 | 150,000 | 現金 | 150,000 |
(期末時)
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 150,000 | 工具器具備品 | 150,000 |
※ただし、少額減価償却資産の特例は青色申告を行っている中小企業者等が対象です。
2-5.ごくまれで金額も少額な場合は【雑費】
雑費費で計上できるのは頻度が低く、かつ少額の場合です。
<仕訳例>
懇意の取引先がたまたま雑誌で取り上げられたので、会社で雑誌(800円)を購入した
借方 | 貸方 | ||
雑費 | 800 | 現金 | 800 |
3.勘定科目は継続性の原則を守る
書籍を購入した時の勘定科目は「図書新聞費」だけとは限りません。購入した目的や実態に応じて勘定科目を選択することができますが、一旦選択したらそれ以後も同じ勘定科目を選択します。
会計における原則を定めた会計原則には「継続性の原則」があります。複数の会計方針や処理方法がある場合に、ひとつ方針や方法を決定したら、みだりに変更してはならないという原則です。
そのため、研修費や福利厚生費にも計上できる書籍代が発生した時は、安易に「新聞図書費」とするのは避けるといいでしょう。今後も同様の支出が発生するかどうかを考え、長期的に経費を把握できる勘定科目を選択することをおすすめします。
4.書籍代を費用計上する場合の注意点
書籍代を費用計上する場合は、次のケースにも注意します。
- 定期購読で決算をまたぐケース
- 新聞を定期購読するケース
- 電子書籍を購入したケース
※ここでの勘定科目は「新聞図書費」としていますが、実際の計上時「研修費」や「福利厚生費」になる場合もあるため、目的や実態に応じて読み替えてください。
4-1.定期購読で決算をまたぐケース
定期購読の期間が決算をまたぐ場合、翌期分は前払金で処理し、決算後に図書新聞費に振替えます。
<仕訳例>
3月決算の企業が1月から専門誌の定期購読を開始し、年間購読料12,000円を支払った場合、「新聞図書費」として計上するのは3ヶ月分(3,000円)。翌期の9ヶ月分(9,000)円は前払金となります。
(支払時)
借方 | 貸方 | ||
新聞図書費 | 3,000 | 現金 | 3,000 |
前払金 | 9,000 |
(翌期)
借方 | 貸方 | ||
新聞図書費 | 9,000 | 前払金 | 9,000 |
4-2.新聞を定期購読するケース
週2回以上発行される定期購読の新聞には軽減税率(税率8%)が適用されます。「週2回以上」の頻度要件と、「定期購読」の契約要件の2つがあるので注意します。定期購読が要件となっているため、駅やコンビニ等で1部だけ購入した場合は軽減税率の対象外です。
4-3.電子書籍を購入したケース
電子書籍はデジタルデータとなるため通信費で計上すると考える方もいるかもしれませんが、新聞図書費で計上するのが一般的です。通信費でも間違いではありませんが、目的や実態が新聞図書費であるなら新聞図書費にした方が無難です。
なお、有料メルマガ(メールマガジン)の費用も事業に関連する情報が掲載されているのであれば、新聞図書費で計上可能です。
5.【参考情報】書籍の経費計上ができない場合に利用可能な「特定支出控除」
自社で書籍の経費計上ができない場合でも、書籍代は特定支出控除に該当するケースがあります。経理業務に直接かかわる制度ではありませんが、社員が自発的に書籍を購入したけれど社内規定で経費にすることができない、といったときに社員に伝えると喜ばれるでしょう。
特定支出控除とは、特定支出の合計額が給与所得控除額の2分の1(最高125万円)を超える場合、超過部分について、給与所得を控除することができる制度です。
<給与所得控除の金額>
給与額に応じて55万円~ 195万円の範囲内で決定されます。
また、特定支出の詳細は国税庁のサイトをご覧ください。
国税庁「No.1415 給与所得者の特定支出控除」
控除を受けるためには確定申告が必要ですし、書籍費用だけで給与所得控除の2分の1を超えることは少ないかもしれません。ただし、特定支出には研修費や資格講座を受けた場合の授業料なども含まれるため、他の出費と合算すれば控除できる可能性が高まります。
6.まとめ 状況に応じた正しい勘定科目を使用しよう
書籍を購入した場合の勘定科目は新聞図書費以外にも複数あります。書籍を購入した目的や状況に合わせた勘定科目を選択できるようにしましょう。また、近年は電子書籍の普及やリスキリング(学び直し)が注目されてきています。個々の社員が業務に関連する書籍(電子書籍)を購入したときに、適切な案内ができるよう、社内ルールを確認しておくことも必要かもしれません。
書籍購入の勘定科目について理解を深め、経理としてステップアップしていきましょう。