支払調書の提出義務はある?提出先や省略する場合、罰則について解説

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監修者 宇都宮健太

支払調書の提出義務は、誰に対して、また、どのような場合に課せられるのか疑問に思われる方も少なくありません。

結論としては、支払調書は「源泉徴収義務者」のみに義務付けられています。

報酬や契約金、原稿料などで規定を超える金額を支払った場合には必ず提出しなくてはなりません。

支払先への交付義務はありませんが、税務署への提出義務は定められています。

※源泉徴収義務者とは、給与や報酬、料金を支払う際、支払金額から所得税および復興特別所得税を差し引き、国に納税する義務を負う人のことを指します。

しかし、具体的にどのような場合に提出が必要なのか、免除されるケースがあるのか、また提出手順に関してなど、疑問がある方もいらっしゃるでしょう。

この記事では、支払調書の提出義務についての基本を解説し、提出が必要な場合の提出先や罰則、注意点について詳しくご紹介します。

1.支払調書の提出義務について

支払調書の提出義務について、「誰が」「いつ」「どのように」提出しなければならないのか、多くの事業者が頭を悩ませています。この章では、支払調書の提出義務についての疑問にお答えしていきます。

1-1.提出義務は「源泉徴収義務者」のみにある

支払調書の提出が義務付けられているのは「源泉徴収義務者」のみです。源泉徴収義務は、事業者が給与や一定の報酬を支払う際に発生します。

具体的には、従業員への給与や賞与、退職金、個人事業主への特定の報酬(例:原稿料、講演料など)が対象です。また、法人や個人事業主が従業員を雇用して給与を支払う場合も義務が生じます。

注意すべき点として、源泉徴収の対象とならず、源泉徴収自体を行っていない支払いであっても、支払調書の提出範囲に該当する支払いがあった際には、支払調書の提出が必要となる場合があります。

1-2.提出義務は規定を超える金額を支払った場合のみある

支払調書の提出義務がある範囲は、支払金額や受取人の条件に基づいて決定されます。以下のような場合に提出が必要です。

①外交員、集金人、電力量計の検針人およびプロボクサー等の報酬・料金、バー、キャバレー等のホステス等の報酬・料金、広告宣伝のための賞金:同一人への年間支払金額が50万円を超える場合。

②プロ野球の選手などに支払う報酬、契約金 : 同一人への年間支払金額が5万円を超える場合

③弁護士や税理士等に対する報酬、作家や画家に対する原稿料や画料、講演料等 : 同一人への年間支払金額が5万円を超える場合。

④馬主に支払う競馬の賞金: 同一人への1回の支払賞金額が75万円を超える場合。

⑤社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬 : 同一人への年間支払金額が50万円を超える場合

提出範囲の金額については、原則として消費税および地方消費税の額を含めて判断します。

詳しくは国税庁のウェブサイトを以下のURLからご覧ください。

国税庁「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」の提出範囲と提出枚数等

2.支払調書は税務署にのみ提出義務がある

支払調書は税務署に提出する義務がある一方、支払先への交付義務はありません。

これは、税務署が所得の適正な把握と納税状況の管理を行うためです。

報酬や料金の支払先に対して支払調書を交付する義務はありませんが、この理由として、そもそも支払調書は、支払先(受取人)の所得状況を税務署が把握するための書類であるためです。

ただし、慣習として発行されることはあります。あくまで取引先への交付は任意ですが、受取人からの依頼があった場合には、サービスとして発行することもあります。

支払調書は、事業者の所在地を管轄する税務署に提出します。

また、取引における受取人は、税務署が保有する支払調書の情報をもとに所得税の計算や確定申告を行うため、支払調書を提出する事業者側が正確に提出することが重要となります。

3.支払調書の提出期限

支払調書の提出期限は、報酬や料金を支払った翌年の1月31日までです。

この期限を守らないと、税務署側での所得確認が遅れ、受取人の納税処理にも影響を及ぼします。また、支払調書の提出が遅れた場合、直接的な罰則はありませんが、提出しない場合や虚偽の申請があった場合には罰則が生じる可能性はあります。詳しくは5章をご一読ください。

4.提出が省略できる場合とは?

支払調書には、ここまででお伝えしたように、基本的に提出義務があります。ただし、一定の条件に該当する場合、提出を省略することができます。この章では、支払調書の提出が省略可能な場合について解説していきます。

4-1.規定範囲内の金額の支払いの場合

支払調書の提出義務は、報酬や料金などが一定の金額を超えた場合にのみ発生することを1-2でお伝えしましたが、つまり、報酬や料金などが一定の金額を超えない場合には提出義務はないことになります。

例えば、1回あたりの支払額が5万円以下の報酬や料金については確実に提出不要です。ただし、複数回の支払いがあり、年間の合計が規定額を超える場合には、提出が必要となる点に注意しておきましょう。

4-2.非居住者への支払が年間50万円以下の場合

非居住者に対する報酬や料金の支払いについては、年間の支払総額が50万円以下であれば支払調書の提出義務はありません。

非居住者とは、日本国内に居住していない個人や外国法人を指します。

ただし、支払いが50万円を超える場合には、提出義務が発生するため、特に複数回の支払いを行う場合は合計金額に注意しておきましょう。

5.罰則について

支払調書の提出を怠ったり、虚偽の記載を行った場合、所得税法に基づき「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科せられる可能性があります。

理由としては、支払調書の提出を怠ると、税務署が正確な所得情報を把握できなくなってしまうためです。また、支払調書に虚偽の金額や内容を記載してしまった場合には、税務署に誤解を与え、正確な課税を妨げてしまうため、罰則が設けられています。

罰則を回避するためには、以下の点に注意することが重要です。

・提出期限(翌年1月31日)を厳守する。

・記載内容を正確に確認し、誤りのないようにする。

・提出方法(紙媒体・電子申告)を適切に選択して手続きを完了させる。

特に、初めて支払調書を作成する場合や、大量の支払いがあるという場合などには、ミスが発生しないように専門家に相談することをおすすめいたします。

適切な提出を行い、税務リスクを回避できるようにしましょう。

6.支払調書の提出に関する注意点

支払調書の提出義務では、単に作成して提出すればよいというわけではなく、いくつかの重要な注意点があります。この章では、その具体的な内容を詳しく解説します。

6-1.源泉徴収不要でも支払調書を提出しなければならない場合がある

源泉徴収の対象外であっても、支払調書提出範囲に定められている規定金額を超える支払いがある場合は、支払調書は必ず提出が必要です。

一般的に、報酬や料金の支払いのほとんどには源泉徴収が伴いますが、すべてのケースで源泉徴収が必要というわけではありません。しかし、源泉徴収が不要な場合でも、支払調書の提出義務があるケースがあるのです。

例えば、特定の業務委託契約や不動産使用料などで源泉徴収の対象外とされる場合でも、一定額を超える支払いがある場合については、支払調書を提出する必要があります。

6-2.法定調書合計表を同時提出しなければならない

支払調書の提出時には、法定調書合計表を同時に提出する必要があります。

法定調書合計表とは、事業者が作成した源泉徴収票や支払調書などの各法定調書を集計し、税務署に提出するための書類です。税務署が支払金額や源泉徴収税額を一括で把握するために利用します。

支払調書を単体で提出しても、合計表が添付されていないと不備扱いとなり、税務署からの指摘を受けます。

また、合計表に記載する金額が支払調書と一致していない場合も問題となるため、作成時には慎重に確認することが求められます。

6-3.電子申告が支払調書の枚数によっては義務付けられている

税務手続きの効率化を目的に、法定調書の電子申告が義務化されています。

それぞれの期間において、以下のように提出枚数に応じて、電子申告が義務付けられています。

法定調書の種類ごとに、前々年に提出すべきであった当該法定調書の枚数

・令和2年12月31日以前:1,000枚以上は電子申告

・令和3年分以降:100枚以上は電子申告

・令和9年1月1日以降:30枚以上は電子申告

このように、法定調書ごとの提出枚数が一定以上の場合には、e-Taxまたは光ディスクなどによる提出が必須となります。この義務化は、事業者の負担軽減や税務署の業務効率化を目的としています。

義務化の対象となる枚数は、過去数年間で段階的に引き下げられてきました。例えば、令和3年以前は「1,000枚以上」が電子申告の対象でしたが、現在は「30枚以上」にまで引き下げられています。

まだ紙での提出を続けている事業者の方に関しても、なるべく早めに電子申告の環境を整備する必要があります。

7.支払調書についてお悩みの方は辻・本郷 税理士法人の税務顧問サービスのご検討を

支払調書の作成・提出は、金額の確認や帳簿の照合など、細かい作業が多く発生します。また、税務署への提出手続きに不備があるとペナルティを受けるリスクがあるため、正確かつ迅速な対応が求められます。

こうした煩雑な業務をプロに任せることで、ミスを防ぎつつ、安心して事業運営に集中できます。

特に、税務に関する専門的な知識や経験を持つ辻・本郷 税理士法人の税務顧問サービスでは、包括的な税務に関するサポートを提供しています。

支払調書に関する不安や疑問がある場合は、早めに専門家に相談することをおすすめいたします。

8.まとめ

支払調書の提出は、事業運営において重要な法的義務の一つです。以下に示すポイントを押さえておきましょう。

・提出義務者は源泉徴収義務者のみ

・提出先は税務署

・支払調書提出範囲として定められている金額の場合は必ず提出

・提出期限は翌年1月31日まで

・電子申告が義務化されるケースが増加

支払調書の提出義務を正しく理解し、期限内にスムーズに対応することは、事業者として非常に重要です。

正確な申告と提出を行い、税務リスクを回避して、円滑な事業運営を行っていきましょう。