住民税の納付には、特別徴収と普通徴収の二種類の方法があります。ほとんどの会社勤めの方は、特別徴収の形式で納付をします。
住民税の特別徴収とは、事業主が従業員に代わって住民税を毎月給料から天引きし、自治体へ納める仕組みです。
しかし、手続きの詳細や納付期限、普通徴収との違いなど、理解しにくい部分も多いため、適切に対応できるか不安を抱えている方も少なくありません。
この記事では、特別徴収の基本的な仕組みから、手続きや支払いの流れを、よくある質問を交えてわかりやすく解説します。特別徴収に関する疑問を解消し、スムーズな手続きを進めるための知識を身につけましょう。
目次
1.住民税の納付方法には特別徴収と普通徴収の2種類がある
住民税の納付方法には「特別徴収」と「普通徴収」の2種類があります。それぞれの違いは、主に住民税をどのように納めるか、という点にあります。下記の表で、両者の特徴を比較します。
項目 | 特別徴収 | 普通徴収 |
納付方法 | 会社が給与から天引きして納付 | 納税者が自分で納付 |
対象者 | 原則全ての給与所得者 | 個人事業主や特定の条件に当てはまる給与所得者 |
納付頻度 | 毎月 | 原則年4回 |
手続きの手間 | 会社が負担 | 自己管理が必要 |
メリット | 1回あたりの税負担が少ない | 市区町村によってはクレジット払いなどが可能 |
デメリット | 会社の事務負担が増加する | 納付期限を過ぎると住民税滞納となり督促が行われる |
1-1.特別徴収とは
特別徴収とは、事業所(雇用主、会社)が従業員の給与から住民税を天引きし、その税額を市区町村に直接納付する方法です。原則として、給与所得者は全員特別徴収が義務づけられています。従業員自身が納税の手続きを行う必要がないため、従業員の立場としては手間が少ないことが特徴です。
1-2.普通徴収とは
普通徴収は、納税者自身が市区町村から送られてくる納税通知書に基づいて、6月、8月、10月、1月の年4回に分けて住民税を自ら納付する方法です。主に給与所得以外の個人事業主、退職して次の就職先が決まっていない方、転職先は決まっているが申請手続き中の方、特別な事情により特別徴収から普通徴収への切替が認められた方が対象です。
2.特別徴収のメリットとデメリット
特別徴収と普通徴収には、1章で述べたような違いがあります。納付方法は働き方によって決まるため、どちらの方法で納付するかを選択することはできませんが、ここでは特別徴収によってどのようなメリットを享受しているのか、また、どのようなデメリットがあるのかをご説明します。
2-1.特別徴収のメリット
・手続きが簡単である・・・従業員自身が税金を納める手間が省けます。
・自動的に納付される・・・給与から天引きされるため、納め忘れのリスクがありません。
・安定した収入管理ができる・・・納税額が毎月給与から差し引かれるため、収入の計画が立てやすいです。
2-2.特別徴収のデメリット
・会社側の負担がある・・・事業所(会社)が納付手続きを行うため、従業員数が多い場合は手間が増えます。
・毎月の現金流出がある・・・給与からの天引きが毎月行われるため、従業員にとっては毎月少しずつ税金が引かれるという感覚が続きます。
・納税者(従業員)のデメリットとして会社に副収入がばれることがある・・・本業の勤務先である会社が給与から住民税を天引きする際には、自治体から『給与所得等に係る市民税・県民税 特別徴収税額の決定通知書』が届きます。副収入を得ている方は、通知書の『主たる給与以外の合算所得区分』の欄に、副収入に該当する所得と合計額が記載されているため、会社にその存在を隠している方にとってはデメリットが生じることになります。
3.特別徴収の納付までの流れ
特別徴収の納付は、従業員が納税者となってはいますが、会社が代わりに税額を計算して納付する仕組みです。以下に納付までの手続きをご紹介します。
①1月31日までに前年度の給与支払報告書を市区町村に提出する
②市区町村から特別徴収税額決定通知が届く
③6月〜翌年5月まで毎月、従業員の給与から住民税を控除する
④翌月10日までに住民税を市区町村に納付する
納付状況を常に把握し、住民税の納付漏れや遅延がないように管理することが、事業所には求められます。特に複数の従業員を抱える事業所では、住民税の控除と納付を適切に管理するためのシステムや体制が必要です。
3-1.1月31日までに前年度の給与支払報告書を市区町村に提出する
事業所は1月31日までに従業員の給与支払報告書を市区町村に提出します。この報告書には、従業員ごとの年間総所得額や給与の支払い状況が詳細に記載されており、住民税の計算に必要な情報が含まれます。給与支払報告書の提出を怠ると税額の決定が遅れてしまうため、必ず期限内に正確な情報を提出することが重要です。
これに基づいて、住民税の税額が決定されます。
提出方法としては、紙ベースでの提出に加え、近年では電子申告(eLTAX)も推奨されています。eLTAXを利用することで、書類の郵送費を削減でき、かつ、事務作業の効率化が図れます。また、市区町村に応じてオンラインでの提出を義務付けている場合もあるため、最新の提出要件を確認しておきましょう。
3-2.市区町村から特別徴収税額決定通知が届く
給与支払報告書が提出されると、市区町村はその情報に基づき、各従業員の年間の住民税額を算出します。この税額は、前年の所得に基づいて計算され、特別徴収を実施する事業所へ「特別徴収税額決定通知書」として4月から5月にかけて送付されます。
この通知書には、各従業員が6月から翌年5月までに納付すべき住民税額が記載されています。事業所はこれに基づいて、住民税を従業員の給与から毎月控除する手続きを進めます。特別徴収税額決定通知が届いた後は、事業所は内容を確認し、控除を行うための準備を行います。
この通知に万が一誤りがあった場合には、速やかに市区町村に連絡し、修正の手続きを取ることが求められます。
3-3.6月〜翌年5月まで毎月、従業員の給与から住民税を控除する
市区町村から通知された税額をもとに、事業所は6月から翌年5月までの12か月間、毎月の給与支払時に住民税を控除します。この控除は、所得税とは異なり、前年の所得に基づいて計算されるため、前年の収入が少なくなったという場合でもすぐには減額されず、次年度の6月以降に調整が行われます。
控除する金額は「特別徴収税額決定通知書」に従って行われ、事業所は従業員に通知しておくのが一般的です。
もし事業所が特別な理由で控除ができないというような場合には、事業所は市区町村に確認して対応する必要があります。
3-4.翌月10日までに住民税を市区町村に納付する
事業所が従業員の給与から控除した住民税は、原則として翌月10日までに市区町村に納付する義務があります。この納付期限を守らないと事業所にはペナルティが発生する可能性がありますので、期限は厳守しましょう。
納付方法には、従来の金融機関窓口での納付や納付書を用いた郵送納付のほか、eLTAXやペイジーといった電子納付手段があります。eLTAXでは、全国の市区町村への電子申告・納付が可能であり、事業所の負担を軽減します。また、ペイジーはインターネットバンキングやATMを使った簡便な納付方法で、手軽に利用できる点がメリットです。
4.特別徴収についてよくあるQ&A
この章では、特別徴収に関するよくある質問をまとめました。ぜひ一度お目通しください。
4-1.特別徴収か普通徴収かを選ぶことはできますか?
原則として、給与所得者は特別徴収が義務ですが、特定の条件を満たす場合に限り、普通徴収を選ぶことができます。会社や従業員に以下のような事情がある場合、特定の条件を満たすとされます。
【会社】
・総従業員数が2名以下である場合
・常時2名以下の家事使用人のみに給与を支払っている場合
【従業員】
・他の会社で特別徴収をしている場合
・5月31日までに退職する予定がある場合
・給与が毎月支払われていない場合
・給与が少ないため特別徴収できない場合
このような事情がある場合は、「個人住民税の普通徴収の切替理由書」と「給与支払報告書」を1月31日までに市町村へ提出します。
4-2.納期の特例を利用すれば毎月の給与から住民税を差し引きしなくてもよいのですか?
従業員が常時10人未満の事業所など、納期の特例制度の要件にあたる事業所では、特別徴収税額の納期の特例制度があります。納期の特例を利用すれば、年12回の納付を年2回にまとめることができますが、給与からの差し引き自体は引き続き行われます。
納期の特例では、年12回、6月から翌年5月まで毎月住民税を会社が徴収した分を、12月と翌年6月の年2回で納める、という制度であるためです。
4-3.過去に所得のない新入社員にも特別徴収が必要なのですか?
住民税の額は、前年の1月~12月の所得をもとに決定されています。そのため、前年に所得のない新入社員の場合は、住民税の特別徴収は入社2年目からになります。
したがって入社時には特別徴収の手続きは必要ありません。
4-4.従業員の退職・転職・休職・死亡などの理由で特別徴収ができなくなったときはどうしたらよいのですか?
従業員の退職・転職・休職・死亡などによって、住民税の特別徴収ができなくなったときには、事業所は翌月10日までに「給与所得者異動届出書」を市区町村に提出する必要があります。
退職時に従業員の転職先が決まっていないときには、従業員は住民税の納付方法を普通徴収へ切り替える必要があります。「給与所得者異動届出書」に普通徴収へ切り替える旨を記載して提出することとなります。
4-5.2か所以上の事業所に勤務している給与所得者はどちらで特別徴収されますか?
2か所以上の給与支払者から給与の支払いを受けている人は、原則としてそのうち1か所の主たる給与を支払っている事業所で、すべての税額の特別徴収が行われることになります。
4-6.特別徴収を納付しない、または滞納するとどうなるのですか?
納付を怠ることは「脱税に関する罪」と認められる行為です。
各地区によって対応は異なりますが、たとえば東京都では、特別徴収義務者に対して原則として納期限後20日以内に督促状が発送されます。さらに、督促状が届いても納入されない場合は、事業主に対して滞納処分を行うこととなります。
事業所が特別徴収分を滞納すると、従業員は給与等から市府民税が天引きされているにもかかわらず、滞納の扱いとなります。そのため、従業員は納税証明書などを取得できなくなる可能性があります。
4-7.eLTAXを用いた納付はどのように行うのですか?
eLTAXを利用した納付は、以下の手順に従います。
①eLTAXのサイトにアクセスし、ログイン
②指定された様式に基づき納税情報を発行する
③納付方法を選択する
④電子納付により市区町村に納付する
詳細は以下のURLから「eLTAX 納付手続きの手順」をご確認ください。
4-8.ペイジーサービスを用いた納付はどのように行うのですか?
ペイジーを介した納付の手順は以下の通りです。
①収納機関番号を確認する
②ペイジー対応の金融機関を利用し、ATMまたはインターネットバンキングを選択する
③納付手続きを行う
詳細は以下のURLから「ペイジー(Pay-easy)を介した納付の手順」をご確認ください。
5.普通徴収から特別徴収へ切り替える方法
普通徴収から特別徴収への切り替え方法は、基本的に以下でご紹介する手順に従って行います。
個人事業主の方や、一度退職したために現在は普通徴収を行っているという方が給与所得者に変更する場合、以下の手順によって切り替えることができます。
5-1.事業所(会社)が市区町村に特別徴収切替の申請を行う
最初に、住民税を管理している市区町村に対して、事業所(会社)が特別徴収への切り替えを申請します。多くの市区町村では特別徴収切替届出(依頼)書や、特別徴収への切替申請書の提出が必要です。作成には「住民税額の決定通知書」の提出が必要なので、会社に提出しておきましょう。
ただし、申請時点で既に普通徴収の納期限が過ぎている分に関しては、特別徴収に切り替えることができません。
必要な書類や手続き方法は各市区町村の窓口やWEBサイトで確認することができます。
5-2.従業員の給与支払報告書を提出する
切り替え申請が受理されたら、事業所は給与支払報告書を市区町村に提出します。これは毎年1月31日までに行われる手続きであり、これを基にして市区町村は特別徴収税額を決定します。
5-3.市区町村から特別徴収税額決定通知が届く
申請が完了した後、市区町村から「特別徴収税額決定通知書」が事業所に送られてきます。これには、各従業員の住民税額が記載されています。
5-4.給与から住民税を天引きする
通知を基に、事業所は6月から翌年5月までの12か月間、従業員の給与から住民税を天引きします。この天引きされた住民税は、事業所が市区町村に毎月納付することになります。
5-5.納付の手続き
給与から差し引いた住民税は、翌月10日までに市区町村に納付します。電子納付が可能な市区町村も増えており、eLTAXやペイジーなどを利用して効率的に納付することができます。
5-6.注意点
特別徴収への切り替えは、基本的には年度単位で行われます。そのため、年度途中に切り替える場合は、次年度の申告に合わせて手続きが行われることが多いです。
また、切り替えには、事業所(会社)の協力が必要であるため、まずは提出物や納付方法について事業所へ確認を行いましょう。
特別徴収への切り替えは、市区町村ごとに多少手続きが異なる場合がありますので、具体的な手続きについては該当する市区町村に問い合わせて確認することをお勧めします。
6.住民税の特別徴収にお困りの方は辻・本郷 税理士法人の税務顧問サービスのご活用を
特別徴収の手続きや納付に関してお困りの方は、専門家に相談するのが賢明です。ご自身では解決できないお悩みでも、解決まで親身になってサポートいたします。
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7.まとめ
住民税の納付方法には、事業所(会社)が従業員の給与から天引きして納付する特別徴収と、納税者自身が自ら納付する普通徴収があります。
特別徴収には、納税の手間が減るなどのメリットがありますが、事業所にとっては手続きの負担が増えるデメリットもあります。
特別徴収へ切り替えたい場合は、市区町村への申請を行い、従業員の給与支払報告書を提出することが必要です。切り替え後は、市区町村からの通知に基づいて、給与から毎月天引きされる住民税を納付します。
納付にはeLTAXやペイジーなどの便利な電子サービスも利用可能です。
もし特別徴収の手続きや納付に関して不安がある場合は、専門家に相談することでスムーズに対応できます。お気軽にご相談ください。