明確な株価が存在しない非上場株式の譲渡などを行う場合、税制上の株式評価額を求めることが必要です。その評価方法のひとつが、類似業種比準方式です。
主に大会社や中会社を評価するときに使われる方法で、評価会社と事業内容が類似している上場株式の株価を参考に、1株当たり配当金、利益金、純資産額(帳簿価額)の3つの要素から算出します。
本記事では、類似業種比準価額の計算方法について解説しました。
類似業種比準価額の算出は、次の2つの手順で行います。
- 50円ベースの1株当たり類似業種比準価額を計算する。
- 1株あたり類似業種比準価額を計算する。
木造住宅建築工事業を行うα社を事例に、類似業種比準価額を算出する手順をみていきましょう。
α社のデータ
- 事業内容:木造住宅建築工事業
- 直前期末の資本金:1,000万円
- 発行済株式数:1万株
- 事業規模:中会社の小
- 課税時期:令和6年3月
- 直前期の年配当金額=140万円
- 直前々期の年配当金額=100万円
- 直前期の年利益金額=1,100万円
- 直前々期の年利益金額=1,600万円
- 利益積立金額=5,500万円
目次
1.類似業種比準価額の計算の手順とは?
まずは、1株あたり50円とする類似業種比準価額を以下の式を使って算出します。
式に含まれる記号は、それぞれ以下のことを示しています。
- 類似業種の株価
- 課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの配当金額
- 課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの年利益金額
- 課税時期の属する年の類似業種の1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)
- Ⓑ評価会社の1株当たりの配当金額
- Ⓒ評価会社の1株当たりの年利益金額
- Ⓓ評価会社の1株当たりの純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)
※ⒷⒸⒹは、1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額。
参考:類似業種比準価額|国税庁
1-1.類似業種の業種目を確認する
最初に評価会社の事業内容から、類似業種の業種目を判断します。
1-1-1.日本産業分類における分類を確認
「日本標準産業分類」(総務省)から、該当する業種を探し出します。
出典:日本標準産業分類(令和5年7月告示)分類項目表|総務省を加工して作成
※評価会社の該当する分類がわからない場合は、「日本標準産業分類の解説」(総務省)を参考に判断します。
α社の業種を確認
α社は、木造住宅の建設を業としているため、「065 木造建築工事業」に該当します。
1-1-2.類似業種比準価額計算上の業種目を確認
評価会社が該当する2つの業種目を確認します。
類似業種比準価額計算上の業種目確認の手順
- 日本産業分類における分類から、類似業種比準価額計算上の業種目を探す。
- 評価会社の事業が属する分類により、2つ目の業種目を確認。
1.類似業種比準価額計算上の業種目を判定します。
「日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表」(国税庁)を利用して、「1-1-1.日本産業分類における業種を確認」で確認した分類に該当する類似業種比準価額計算上の業種目を判定します。
出典: (別表)日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表(平成29年分)|国税庁を加工して作成
2.評価会社が該当する分類により、2つの業種目を選択します。
・該当する業種目の分類:小分類
小分類と中分類の業種目を選択
・該当する業種目の区分分類:中分類
中分類と大分類の業種目を選択
α社の類似業種比準価額計算上の業種目
- 日本産業分類の業種では、木造建築工事業であるため、類似業種比準価額計算上の業種目は、「その他の総合工事業」です。
- α社の事業である「その他の総合工事業」は小分類であるため、中分類の「総合工事業」も選択可能となります。
1-2.類似業種の数値を調べる
最初に、類似業種の数値として、株価(A)、配当金額(B)、年利益金額(C)、純資産価額(D)を見つけましょう。
1-2-1.類似業種の株価(A)
算式のAに入るのは、類似業種の株価です。
国税庁のホームページの「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」から、該当する業種目を探します。
「1-1-2.類似業種比準価額計算上の業種目」で確認した2つの業種目について、次の5つの項目で最も小さな数字を用います。
- 課税時期の属する月の株価
- 課税時期の属する前月の株価
- 課税時期の属する前々月の株価
- 前年度の平均株価
- 課税時期の属する月以前2年間の平均株価
出典:令和5年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について(法令解釈通達)|国税庁を加工して使用
1-2-2.類似業種の1株当たりの配当金額(B)、利益金額(C)、簿価純資産価額(D)
「1-2-1.類似業種の株価」で使用した「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」の表から、2つの類似業種の配当金額(B)、利益金額(C)、簿価純資産価額(D)を探します。
出典:令和5年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について(法令解釈通達)|国税庁を加工して使用
α社の類似業種の配当金額、利益金額、簿価純資産価額
α社は、小分類であることから、類似業種の数値は以下の通りです。
中分類から
- 1株当たりの配当金額(B)=0円
- 1株当たりの利益金額(C)=46円
- 1株当たりの簿価純資産価額(D)=411円
小分類から
- 1株当たりの配当金額(B)=8.4円
- 1株当たりの利益金額(C)=39円
- 1株当たりの簿価純資産価額(D)=398円
ここまでのα社に関する数値を式に入れると、以下のようになります。
1-3.評価会社の配当金額(Ⓑ)、利益金額(Ⓒ)、純資産価額(Ⓓ)を確認する
評価会社の配当金額(Ⓑ)、年利益金額(Ⓒ)、純資産価額(Ⓓ)を算出します。
評価会社に関する数値を算出する場合、最初に、類似業種比準価額上の株式数を算出することが必要です。
類似業種比準価額の計算では、評価会社と類似業種の比較をするために資本金額を50円で割った数字を評価会社の「株式数」としています。そのため、ここで用いる株式数は、実際に発行している株式数とは異なるので、注意が必要です。
株式数は、以下の式で算出します。
なお、類似業種比準価額を算出する場合の評価会社の数値は、原則として直前期末のものを使います。
α社の類似業種比準価額計算上の株式数
直前期末の資本金は、1,000万円であることから
1,000万円÷50円=20万株
α社に関する各数値を算出するために使用する株式数は、20万株となります。
1-3-1.評価会社の1株当たりの配当金額(Ⓑ)
評価会社の1株当たりの配当金額を算出します。
特別配当、記念配当などは除き、直前期以前2年間の配当金額の平均値を株式数で除して算出します。無配当の場合は、0円とします。
α社の配当金額
α社のデータより、
- 直前期の配当金額=140万円
- 直前々期の配当金額=100万円
- 類似業種比準価額計算上の株式数=20万株
(140万円+100万円)÷2÷20万株=6円
したがって、α社の1株当たりの配当金(Ⓑ)は、6円となります。
1-3-2.評価会社の1株当たりの利益金額(Ⓒ)
次に以下の式により、評価会社の利益金額を算出します。
類似業種比準方式計算上の利益金額を算出する場合は、以下の2点に注意しましょう。
- 益金に算入されなかった剰余金の配当、損金の額に算入した繰越欠損金控除額を加算する。
- 非経常的な利益(固定資産売却益など)や配当に係る所得税は控除する。
α社の利益金額
α社のデータより、
- 直前期の年利益金額=1,100万円
- 直前々期の年利益金額=1,600万円
- 類似業種比準価額計算上の株式数=20万株
- 直前期2年間の利益金額の平均=(1,100円+1,600円)÷2=1,350円
- 直前期の年利益金額1,100万円<直前期2年間の利益金額の平均1,350円
税金上、利益金額は小さい方が有利になるため、直前期の年利益金額1,100万円を選択します。
1,100円÷20万株=55円
したがって、α社の1株当たりの利益金額(Ⓒ)は55円となります。
1-3-3.1株当たりの評価会社の純資産価額(Ⓓ)
1株当たりの純資産価額(帳簿価額)は、以下の式から算出します。
α社の純資産価額
α社のデータより、
- 直前期末における資本金額=1,000万円
- 利益積立金額=5,500万円
- 類似業種比準価額計算上の株式数=20万株
(1,000万円+5,500万円)÷20万株=325円
したがって、α社の1株当たりの純資産価額(Ⓓ)は、325円となります。
ここまでのα社に関する数値を式にいれると、以下のようになります。
1-4.斟酌率(調整率)を調べる
これまでの計算で算出した株価に会社規模に応じた斟酌率をかけて、調整します。
斟酌率は、会社の規模によって以下ように決まっています。
斟酌率
- 大会社:7
- 中会社:6
- 小会社:0.5
α社の斟酌率
α社会社規模は、中会社の小であるため、斟酌率は0.6になります。
ここまでの数値をいれて、以下の式が完成しました。
1-5.1株50円とした類似業種比準価額を算出する
完成した2つの式を計算し、50円あたりの類似業種比準価額を算出します。
中分類が157.59円、小分類が164.70円となりました。
1株50円とした類似業種比準価額は、金額が小さい方が税金が有利になるため、小分類と中分類と比較し、小さい数値を採用します。
中分類・157.59円<小分類・164.70円
したがって、1株50円とした類似業種比準価額は、157.59円となります。
1-6.評価会社1株あたりの類似業種比準価額に修正
ここまでで算出したのは、1株50円と仮定したの類似業種比準価額です。これを資本金をもとに以下の式にあてはめ、評価会社の株式数に修正します。
α社の1株あたりの類似業種比準価額
157.59×1,000万円÷1万株÷50円=3151.8円
したがって、α社の1株あたりの類似業種比準価額は、3151.8円となります。
まとめ
本記事では、類似業種比準価額の算出方法についてまとめました。もう一度、算出する手順について振り返ってみましょう。
類似業種比準価額の算出には、大きく分けて2つのステップがあります。
- 50円ベースの1株当たり類似業種比準価額を計算する。
- 1株あたり類似業種比準価額を計算する。
1株50円とした類似業種比準価額は、以下の数式を用いて算出します。
①類似業種の業種目を確認する
②該当する2分類について類似業種の数値を調べる
- 類似業種の株価(A)
- 類似業種の1株当たりの配当金額(B)
- 類似業種の1株当たりの利益金額(C)
- 類似業種の1株当たりの純資産価額(帳簿価額)(D)
③評価会社の数値を確認する ※1株50円として計算する
- 評価会社の1株当たりの配当金額(Ⓑ)
- 評価会社の1株当たりの利益金額(Ⓒ)
- 評価会社の株当たりの純資産価額(帳簿価額)(Ⓓ)
④斟酌率(調整率)を調べる
⑤1株50円とした類似業種比準価額を2分類それぞれにおいて算出。数値が小さい方を採用する。
⑥評価会社1株あたりの類似業種比準価額に修正
以上、類似業種比準価額を算出する際の参考になれば幸いです。