個人事業主の中には、「事業主貸の金額が多いと、税務調査で目をつけられるのでは?」と考えている方もいるのではないでしょうか。
事業主貸は、個人事業主にとって生活費そのものとも言えるため、その金額は個人のライフスタイルによってさまざまです。
とはいえ、収入との兼ね合いで事業主貸が多すぎる場合は、税務調査の対象になりやすくなったり、目をつけられやすくなったりします。
本記事では、事業主貸が多い場合や少ない場合に税務調査で疑われやすいポイントや、税務署からの指摘を避けるための対処法などを紹介します。
税務調査で事業主貸について問題になりやすいポイントをあらかじめ把握しておき、事前に対策ができるようにしておきましょう。
目次
1.事業主貸が不自然に多い人は税務調査に入られやすい
一般的に、「事業主貸の金額が◯◯円以上なら税務調査に入られやすくなる」という明確な基準はありません。家族構成や生活状況は人それぞれであり、単に事業主貸の金額が大きいだけでは問題にならないためです。
ですが、所得や事業規模に対して、事業主貸が不自然に多い場合は、税務調査の対象に選ばれやすくなります。
事業主貸が多すぎると、「申告漏れがあるのではないか」「事業とプライベートの支出が適切に区分されていないのではないか」と税務署に疑われやすくなるためです。
具体的には、事業で得た収入の20%以上を事業主貸として処理している場合に、税務調査のターゲットになりやすくなる傾向があると言われています。
なお、事業主貸の金額以外にも、個人事業主やフリーランスが税務調査で疑われやすくなるポイントがあります。詳しくは、次の関連記事で紹介しています。
税務調査されやすい個人事業主の特徴8つ|疑われない対策方法も解説
フリーランスも税務調査される!疑われる5つの特徴と対策方法を解説
2.事業主貸が多い場合に税務調査で疑われがちな2つのポイント
事業主貸が不自然に多い場合、税務調査では次のような点を疑われるケースが多いです。
- 売上を少なく申告していないか
- 事業に関係ない支出を経費に計上していないか
事業主貸が多いということは、その分生活費がかかっているとみなされます。そのため、「これだけ生活費がかかっているのなら、本当はもっと所得があるのでは?」と疑われ、売上や経費が正しく申告されているか詳しく調べられるのです。
次から、税務調査で疑われがちなポイントを具体的に確認してみましょう。
2-1.売上を少なく申告していないか
所得に見合わない多額の事業主貸がある場合、税務署が真っ先に疑うポイントは「売上の金額を実際より少なく申告しているのではないか」という点です。
なぜなら、所得に対して事業主貸が不自然に多い場合は、売上の一部を申告せずに所得を少なく見せかけている可能性を疑われるからです。また、売上の過少申告は税額への影響が大きく、税務調査では優先的にチェックされることも理由です。
特に、現金取引を行っている場合は、売上があっても記録に残りにくいことから、税務調査の際は詳細にチェックされる傾向があります。
2-2.事業に関係ない支出を経費に計上していないか
事業主貸の多さに違和感を持たれた場合、「事業に無関係な支出を経費に計上して、所得を減らしているのでは?」という観点でもチェックされる可能性があります。
事業主貸の割合が高かったり、使途がきちんと記録されていなかったりすると、「事業とプライベートの支出の区別があいまいなのでは?」という疑いにつながり、経費の適切性を厳しく確認される傾向があるのです。
交際費やガソリン代など、プライベートの分が混在しやすい経費については、事業との関連性を具体的に説明できるようにしておきましょう。
3.事業主貸が少なすぎる場合も税務署に疑われる
事業主貸が少なすぎる場合、税務調査では次のような点をチェックされることがあります。
- 売上の一部や他の所得を申告せずに生活費に充てていないか
- 事業主貸にすべき支出を経費にしていないか
事業主貸が著しく少ないと、「実際にはもっと生活費がかかっているのでは?」「生活費の原資を売上から出していないか?」と疑問を持たれ、売上や経費の申告内容を調べられる可能性があるのです。
次から、一つ一つ解説していきます。
3-1.売上の一部や他の所得を隠していないか
事業主貸が極端に少ないと、「売上の一部を申告せずに、生活費に使っているのではないか」と疑われることがあります。
特に、飲食業や小売業など現金収入が多い業種では、売上隠しを疑われがちです。
また、本業の売上だけでなく、本業以外の所得の申告漏れが発覚するケースもあります。
3-2.事業主貸にすべき支出を経費にしていないか
事業主貸が少なすぎる場合、「本来、事業主貸に計上すべき支出の一部を、経費に計上していないか?」を確認される場合があります。
個人事業主では、事業用と個人用の支出に同じ銀行口座やクレジットカードを使っているケースが多く、経費の内容については税務署のチェック対象になりがちです。
なお、家族の収入や自分の貯蓄から生活費のほとんどを支出しているなど、事業主貸が少ない合理的な理由がある場合は問題ありません。その場合でも、生活費の出どころについて税務署に説明できるようにしておくとよいでしょう。
4.税務調査では事業主借の金額が多い場合も要注意
税務署は、事業主貸だけでなく事業主借の金額にも注目しています。
事業規模に照らして不自然に事業主借が多いと、「これだけの資金を、どこから捻出しているのだろう?」という観点でチェックが行われることがあるのです。
事業主借の資金源として疑われるのは、大きく分けて「未申告の収入」と「親族や知人からの資金」の2つです。
事業主借が多すぎる場合に疑われるポイント | 具体例 |
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申告していない収入がある |
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相続や贈与で資金を得ている |
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事業主借が多すぎる場合、本業の売上の一部や、副業などで得た他の収入を申告せず、事業主借の資金源にしている可能性を疑われます。
また、親族や知人から得た資金によって事業主借が多くなっている場合は、相続税や贈与税が正しく申告されているかどうかもチェックの対象になります。
5.税務調査で問題にならないための4つの対処法
税務調査で、事業主貸や事業主借に関して指摘を受けないためには、あらかじめ次のような対処を行う必要があります。
- 事業分とプライベートを明確に区別して記帳する
- 事業主貸の使途や事業主借の資金源は資料で残しておく
- 不必要な事業資金の出し入れを控える
- 信頼できる税理士と顧問契約する
信頼できる顧問税理士がいれば、税務調査への備えを意識して日々の経理処理を確実に行うことができます。
次から、詳しく見ていきましょう。
5-1.事業とプライベートの支出を明確に区別する
経費の計上ミスを防ぐため、事業とプライベートそれぞれの支出は明確に区別して管理・記帳しておきましょう。
そのためには、事業の経費に計上してよいものといけないものを正確に把握しておく必要があります。
また、個人用と事業用の銀行口座やクレジットカードを分けておくことも効果的です。
記帳や確定申告の作業がスムーズになるだけでなく、ミスを未然に防ぐこともできます。
5-2.事業主貸の使途や事業主借の資金源は資料で残しておく
事業主貸が発生する都度、使途(生活費、税金の支払いなど)を帳簿に記録しておくだけでなく、レシートや領収書などの資料も保管しておきましょう。
帳簿と資料を整合できるようにしておくことで、税務調査で指摘を受けた際も事業主貸の合理性を説明しやすくなります。
事業主貸が少ない場合についても、生活費の出し入れに使っている口座の通帳や、生計を頼っている家族の収入が記載された源泉徴収票などを用意しておくと、税務調査への対応がスムーズです。
また、事業主借については、資金の出どころを証明できる書類を用意しておくと効果的です。
特に、親族や知人からの借金を事業主借に充てている場合は、それが贈与によるものと誤解されないよう、借用書のような証拠書類を備えておく必要があります。
5-3.不必要な事業資金の出し入れを控える
事業に必要な資金については計画的に管理を行い、プライベートで使っている口座との間で必要以上に事業資金を出し入れすることは避けましょう。
事業主貸や事業主借が発生する頻度が多すぎると、「資金管理がいい加減なのでは?」と税務署にネガティブな印象を与えてしまい、税務調査で不利になりかねません。
特に、個人用と事業用のそれぞれで銀行口座やクレジットカードを使い分けることで、事業主貸や事業主借の頻度や金額を少なく抑えることができます。
5-4.信頼できる税理士と顧問契約する
個人事業主が税理士と顧問契約すると、税務調査に関して次のようなメリットがあります。
- 確定申告書の信頼性が上がり、税務調査の対象になりにくい傾向がある
- 万が一税務調査の対象になっても、事前準備や当日立会いなどの手厚いサポートが受けられる
顧問税理士がいれば、記帳や確定申告を代行してもらったりアドバイスを受けたりすることができるので、経理業務が正確かつスムーズになるだけでなく、税務署からの信頼も得ることができます。
もっとも、顧問税理士のメリットを十分に活かすためには、税務調査の実績やノウハウが豊富な税理士を選ぶことが大切です。
辻・本郷 税理士法人なら、年間200件の税務調査の立ち合い実績に加え、税務署の内情を知り尽くした元国税庁OBによるサポートが受けられるため、安心して顧問契約を結ぶことができます。
なお、個人事業主が税理士を頼むメリットは、税務調査対策以外にも多々あります。
次の関連記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
個人事業主に税理士は必要?必要な11のケース・不要な3つのケース
顧問税理士とは?顧問契約する意義や業務内容、料金目安を解説
6.まとめ
個人事業主の場合、収入と事業主貸とのバランスに注意が必要です。
特に、収入に対して事業主貸が不自然に多い場合、税務調査の対象になりやすくなるだけでなく、売上や経費の申告が不適切ではないかと疑われるリスクが上がります。
税務調査で問題にならないためには、日頃から事業とプライベートの支出をはっきり区別することや、事業主貸の使途を資料で残すことなどが重要です。
自分一人で適切な対策を行う自信がない場合は、ぜひ税理士との顧問契約も検討してみましょう。