起業を考え始めたら、まず知っておきたい概念として「法人格」があります。
法人格とは、法律上の人格(法的人格)のことで、権利・義務の主体となることのできる資格をいいます。
少し難しく感じるかもしれませんが、「会社を設立する」とは「法人格を取得する」ことであり、きちんと理解したいポイントです。
この記事では、法人格とは何か、基礎知識をわかりやすく解説します。
法人格を取得することで得られるメリットや、逆に注意したいデメリットについてもお伝えしますので、法人設立の準備としてお役立てください。
目次
1. 法人格とは何か?基本の知識
最初に法人格とは何か、基本の知識からご紹介します。
1-1. 法人=法律上の人格が認められた組織や団体
そもそも「法人」とは何かといえば、法律によって人格を持っていると認められた組織や団体のことです。
実在する人間ではありませんが、法律上では人間のように、人格があるとみなされるものを指して、法人といいます。
1-2. 「法人格」は自然人と法人に認められる
法人格は、冒頭でも触れたとおり、権利・義務の主体となることのできる法律上の資格のことで、自然人と法人に認められます。
語句の区切りは「法人 – 格」ではなく、「法 – 人格」と捉えると、意味がつかみやすいでしょう。
「自然人」は聞き慣れない言葉ですが、“権利義務の主体である個人” を指す法律用語です。
法律では、すべての自然人が、出生から死亡に至るまで権利能力を認められています。私たち全員が、自然人としての法人格を保有している、ということです。
その “個人としての法人格” とは別に法人格を作る方法が、「法人の設立」です。
1-3. 法人の法人格でできることは?
会社を設立して、法的に必要な手続きを行い、「法人」として認められると、「法人格」を持つことになります。
法人格を持つと、自然人である個人と同じように、「法人の人格」でさまざまなことができるようになります。
具体的には、個人名義で行っていたこと(たとえば口座開設、契約、売買、訴訟など)を法人名義で行えるようになるのです。
代表的な法人を設立する目的としては、「個人名義ではなく法人名義で、さまざまな行為を行えるようにすること」が挙げられます。
2. 法人格を取得できる法人の種類と特徴
続いて、法人格が認められる「法人」の種類を、確認しておきましょう。
2-1. 法人の種類の全体像
まず全体像から確認すると、[法人]は[公法人]と[私法人]に分けられます。
[公法人]は国や地方自治体のことです。
[私法人]はさらに[非営利法人]と[営利法人]に分けられます。
それぞれ、以下で見ていきましょう。
2-2. 非営利法人の種類
[非営利法人]とは、その名のとおり「営利を目的としない法人」のことです。福祉、学校、宗教、学芸など、営利ではない活動を目的としています。
私法人では、一般社団法人・一般財団法人・特定非営利活動法人(NPO法人)が、非営利法人に該当します。
【非営利法人の種類】
・一般社団法人:“一般社団・財団法人法”に基づいて設立される、営利を目的としない社団法人。 ※「社団」とは一定の目的をもって組織された自然人の団体のこと。 ・一般財団法人:“一般社団・財団法人法”に基づいて設立される、営利を目的としない財団法人。 ※「財団」とは特定の目的のために結合された財産の集合体のこと。一般社団法人とは異なり「財 産」の集まりに対して法人格が与えられる。 ・特定非営利活動法人(NPO法人):“特定非営利活動促進法(NPO法)”により法人格を与えられた 民間非営利団体。保健・医療・福祉の増進などの“特定非営利活動”を行う非営利の団体。 |
2-3. 営利法人(会社)の種類
次に、[営利法人]は、営利を目的とする法人のことで、「会社」が該当します。
営利法人(会社)は、[株式会社]と[持分会社]に分けられ、[持分会社]はさらに[合同会社][合資会社][合名会社]に分けられます。
株式会社と持分会社の大きな違いは、「資金の調達方法」です。株式会社は株主から出資を受け、持分会社は経営者が自ら出資をします。
【株式会社と持分会社】
・株式会社:株式を発行して株主から資金を集めて設立する(出資者 = 経営者とは限らない) 出資者(株主)の責任は出資額に限定される(有限責任) ・持分会社:経営者が会社に出資して設立する(出資者 = 経営者となる) 責任は有限責任の場合と無限責任の場合がある |
株式会社は有限責任ですが、持株会社は有限責任・無限責任によって、3種類に分かれます。
【持分会社の種類】
(1)合同会社:有限責任社員のみで構成 (2)合名会社:無限責任社員のみで構成 (3)合資会社:無限責任社員と有限責任社員の両方で構成 |
※有限責任・無限責任について詳しく学びたい方には、中小企業庁のサイトJ-Net21の「有限責任と無限責任について教えてください。」がわかりやすくおすすめです。
2-4. 起業するなら「株式会社」か「合同会社」が選択肢
一般的に、起業する人が最も多く選択するのは「株式会社」です。
株式会社は、最も認知度が高く、社会的な信用を得やすい法人形態といえます。「代表取締役」という肩書きが使えるのも、株式会社の特徴です。
株式会社の次に選択肢となるのは「合同会社」です。
合同会社以外の持分会社(合名会社・合資会社)は、出資額の範囲を超えて責任を負うことになります。そのため、あえてこの形態を選ぶケースは、ほとんどありません。
合同会社は有限責任であり、2005年に成立した会社法によって新しく創設された形態です。株式会社ほどの認知度はありませんが、低コストで設立できるメリットがあります。
合同会社の代表者は「代表社員」という肩書きになります。
2-5. どの法人格を取得すべきか迷ったときは専門家に相談
この後、法人格を取得する意義やメリットについて解説していきますが、
「取得したいけれど、どの法人形態にすべきなのか、判断できない」
という声をよく聞きます。
適した法人の種類は、ケースバイケースで異なります。
自己判断で設立する前に、専門家にアドバイスを求めることをおすすめします。適さない法人を設立してしまうと、設立費用などが無駄になってしまうからです。
辻・本郷 税理士法人では、会社設立をご検討中の方を対象に、何度でも無料でご相談を受け付けています。
こちらのお問い合わせページより、ご連絡ください。
3. 法人格を取得する意義・メリット
続いて、なぜ法人格を取得するのか、その意義やメリットについて、見ていきましょう。
6つのポイントが挙げられます。
3-1. 法人の名義が使えるようになる
1つめのメリットは「法人の名義が使えるようになる」です。
「1-3. 法人の法人格でできることは? 」でも触れたことですが、法人格を取得すると、個人の名義ではなく、法人の名義で、さまざまな行為をできるようになります。
【法人名義でできるようになることの例】
・銀行口座の開設 ・不動産などの財産の登記 ・契約行為 ・売買行為 ・訴訟 |
逆にいえば、法人の名義が使えないと、上記を個人の名義でしなければなりません。
複数人で出資しあって事業を始めたいときには、銀行口座や契約の名義を誰にするのか?という現実的な問題が生じます。
代表者の個人名義では、代表者の交代ごとに、名義を書き換えなければなりません。
あるいは内紛が生じた場合には、事業用の財産と代表者の個人財産の分別が不明瞭になり、深刻なトラブルに陥るリスクがあります。
3-2. 事業上の必要性を満たせる
2つめのメリットは「事業上の必要性を満たせる」です。
たとえば、「個人とは取引しない」という方針の企業と取引するためには、法人の法人格を取得する必然性があります。
実際問題として、「法人ではない個人との取引にはリスクがある」と考えて敬遠する企業は、少なくありません。
個人との取引は、代表者個人との取引なのか、団体との取引なのかなど、権利義務関係や責任が不明瞭になることがあるからです。
法人であることが取引要件となっている相手と取引するためには、法人格の取得が不可欠です。
3-3. 資金調達をしやすくなる
3つめのメリットは「資金調達をしやすくなる」です。
金融機関から融資を受けたいと考えている場合や、補助金・助成金を受けたいと考えている場合、法人のほうが選択肢や調達可能額が大きくなる傾向にあります。
その理由として、法人として活動することで、企業の信用力が向上することが挙げられます。
法人格を取得していると、組織としての体系があり、法的な枠組みに則って活動していると見なされます。これにより、金融機関からの信用度が向上し、融資を受けやすくなります。
一方、政府や自治体による「補助金・助成金」は、法人を対象としたものが多く存在します。
雇用促進、離職率低下、健康経営など、特定の目的を持った補助金・助成金があり、個人事業主よりも法人のほうが、選択肢は多いといえます。
参考:【2023年】会社設立でお得な助成金・補助金一覧|申請方法付き
3-4. 人材を確保しやすくなる
4つめのメリットは「人材を確保しやすくなる」です。
近年では少子高齢化社会を背景に、採用難が厳しくなっており、多くの企業で人材確保が難しくなっています。
法人ではない個人事業主であれば、より一層、厳しい状況といえます。
求職者の立場から見ると、個人事業主に雇用されるよりも法人に雇用されて、社員としての地位や、社会保険・福利厚生を得たほうが、安心です。
採用においては、法人格を取得したほうが圧倒的に有利になるといえるでしょう。
3-5. 事業承継の円滑化につながる
5つめのメリットは「事業承継の円滑化につながる」です。
個人事業主として営んでいる事業は、後継者への引継ぎが難航しやすい傾向にあります。
後継者が見つかりにくいことや、個人資産と事業用資産の区分が曖昧なことなどが、その理由として挙げられます。
法人格を取得すると、代表権や株式の譲渡によって事業承継が行えるため、スムーズな引継ぎを実現しやすくなります。
3-6. 税負担の軽減につながる可能性がある
6つめのメリットは「税負担の軽減につながる可能性がある」です。
個人の所得にかかる所得税の算出方法と、法人の所得にかかる法人税の算出方法は異なるため、法人格を取得することで、納税額が低くなるケースがあります。
個人事業の所得税は、累進課税(所得が高くなるほど税率が高くなる)ですが、法人税は非・累進課税であり、基本的に税率は一定です。
・所得税 累進課税:税率 5%〜45% ・法人税 非累進課税:税率 年800万円以下の部分 15%、年800万円超の部分 23.20% ※資本金1億円以下の法人の場合 |
ただし、適用できる控除や軽減措置、所得税・法人税以外の税金(住民税、事業税、消費税など)も含めて、総合的に判断する必要があります。
損益分岐点のシミュレーションは「【会社設立】そのビジネス、会社に(法人成り)した方がお得かも!」にてご紹介していますので、参考にご覧ください。
4. 法人格を取得することで生じる負担・デメリット
法人格を取得すると、さまざまなメリットがある一方で、増える負担もあります。
デメリットとして挙げられるのは、次の2つです。
4-1. 法人としての義務が生じる
1つめのデメリットは「法人としての義務が生じる」です。
法人は、民法・商法・会社法・税法など、さまざまな法律で定められた義務を果たす必要があります。
私たちは生まれながらに自然人としての法人格を持ち、権利と義務を保有していますが、法人という法人格が増えれば、それだけ義務も増えるのです。
【義務の例】
・納税 ・社会保険の加入 ・決算公告 ・帳簿の作成と保存 |
義務の詳細は設立する法人の形態によっても変わりますが、事前にどのような義務が生じるのか、よく理解しておく必要があります。
より詳しく知りたい方は、J-Net21の「中小企業に必要な法律知識」にて、ご確認ください。
4-2. 法人格の取得や維持にコストが生じる
2つめのデメリットは「法人格の取得や維持にコストが生じる」です。
前述の義務とも通じる部分ですが、実務上の問題として、法人格の取得・維持に費用や労力がかかる問題があります。
たとえば、株式会社の場合、設立の実費だけで以下の費用が必要です。
【会社設立にかかる費用】
項目 | 費用 |
定款認証印紙代 | 40,000円 |
定款認証手数料 | 32,000円(※) |
登録免許税 | 150,000円 |
会社設立にかかる実費合計 | 222,000円 |
設立後も、個人事業主で事業を行うことに比較すると、作成書類や会計処理の手間、決算など、多くの作業が必要となります。
5. 法人格に関して注意すべきポイント
最後に、法人格に関して注意すべきポイントをお伝えします。
5-1. 必要十分な法人の種類を選択する
先ほど述べたとおり、法人格を取得すると、権利を得ると同時に、果たすべき義務も生じます。
法人格をなぜ取得したいのか、その目的を明確にし、目的に対して必要十分な法人を選択することが重要です。
たとえば、「2-4. 起業するなら「株式会社」か「合同会社」が選択肢」でも触れたとおり、株式会社ではなく合同会社で目的を果たせるのであれば、設立費用もランニングコストも低く抑えられます。
5-2. 不明な点は専門家に確認して判断する
法人格の取得に際しては、さまざまな法律の知識が必要となるため、専門家でないと判断しかねる部分が多々あります。
設立してから後悔しないように、設立の前に、専門家へ相談することをおすすめします。
辻・本郷 税理士法人では、会社設立をご検討中の方に向けて、無料相談を何度でも実施しています。
設立すべきなのか、しないべきなのか、どのタイミングがベストなのかなど、個別のケースに合わせた具体的なアドバイスが可能です。
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5. まとめ
本記事では「法人格」をテーマに解説しました。要点をまとめておきましょう。
1. 法人=法律上の人格が認められた組織や団体 2. 「法人格」は自然人と法人に認められる 3. 法人の法人格では法人名義でさまざまな行為が可能になる |
法人格を取得する意義・メリットとして、以下が挙げられます。
1. 法人の名義が使えるようになる 2. 事業上の必要性を満たせる 3. 資金調達をしやすくなる 4. 人材を確保しやすくなる 5. 事業承継の円滑化につながる 6. 税負担の軽減につながる可能性がある |
法人格を取得することで生じる負担・デメリットにも、注意が必要です。
1. 法人としての義務が生じる 2. 法人格の取得や維持にコストが生じる |
法人格の取得にあたっては専門知識が必要となるため、専門家のサポートを活用しながら、適切な選択をしていきましょう。