継続?解約?法人成りした時の小規模企業共済の取り扱いを徹底解説!

個人事業主から法人成りをした場合、同じ事業を継続する場合であっても、選択しなければならないことがたくさんあります。

個人事業主時代に加入していた小規模企業共済の継続の有無も、そのうちのひとつでしょう。

本記事では、継続する要件とともにメリットやデメリットを踏まえ、法人成り後の小規模企業共済について解説していきます。
法人成り後の小規模企業共済についてお悩みの方のヒントになれば幸いです。

小規模企業共済とは

独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)を制度の運営主体として、小規模企業の経営者や役員、個人事業主などに向けた、事業をやめたり退職した場合に備える共済制度です。
積立により用意する退職金ともいえるでしょう。


1.法人成りした後も小規模企業共済は継続できる

個人事業主が加入していた小規模企業共済は、法人成りした後も継続(同一人通算)することが可能です。

ただし、個人事業主から法人成りした人のすべてが小規模企業共済を継続できるわけではありません。継続には条件があります。
その条件が以下の3つです。

  • 個人事業を完全に法人成りする
  • 法人の従業員数が所定の人数以下である
  • 個人事業主だった人が、設立した法人の役員として登記する

法人成り後も小規模企業共済を継続する条件の詳細は、5章「法人成り後に小規模企業共済を継続する条件とは?」をご覧ください。


2.法人成りする個人事業主の小規模企業共済3つのパターン

小規模企業共済に加入していた個人事業主が法人成りした場合、加入していた小規模企業共済の取り扱いは、次の3つに分かれます。

  • 小規模企業共済を継続
  • 小規模企業共済の加入資格がなくなり解約(準共済金を受け取る)
  • 小規模企業共済の加入資格はあるが解約(解約手当金を受け取る)

小規模企業共済では、請求事由(請求する理由)によって「共済金A」「共済金B」「準共済金」「解約手当金」を受け取ることができます。

※共済契約者の事業上の地位(個人事業主、個人事業主の共同経営者、会社等役員)によって、請求事由が異なります。

個人事業主の請求事由は以下のとおりです。

共済金等の種類請求事由
共済金 A
・個人事業を廃業した場合
・共済契約者の方が亡くなった場合
共済金 B
・老齢給付
準共済金
・個人事業を法人成りした結果、加入資格がなくなった場合
平成22年12月以前に加入した個人事業主が、全額金銭出資により法人成りをしたときは、「共済金A」となる。
解約手当金
・任意解約(共済契約者による任意の解約)
・機構解約(掛金を12か月以上滞納した場合に、中小機構が行う解約)
個人事業を法人成りしても加入資格はなくならなかったが、解約をした場合

小規模企業共済に加入していた個人事業主が法人成りした場合の3つのパターンについて、くわしくみていきましょう。

2-1.小規模企業共済を継続

小規模企業共済契約の継続(同一人通算)の手続きを行うことによって、法人成り後も引き続き小規模企業共済に加入することができます。
個人事業主のときに掛金を支払った月数や、掛金も通算することが可能です。

ただし、設立する法人が加入資格を満たしていることと、自身が加入条件を満たす立場であることが必要となります。
詳細は、5章の「法人成り後に小規模企業共済を継続する条件とは?」をご確認ください。

2-2.小規模企業共済の加入資格がなくなり解約(準共済金)

法人成りにより小規模企業共済の加入資格がなくなったために解約する場合は、納付済みの掛金に応じた準共済金が支払われます。

例として、掛金月額1万円で加入していた場合の準共済金の受給額をみてみましょう。

掛金納付年数
掛金合計額
受給額
5年
60,000円
60,000円
10年
120,000円
120,000円
15年
180,000円
180,000円
20年
240,000円
2,419,500円

※掛金納付月数が12か月未満の場合、掛金は掛け捨てとなり、準共済金は受け取れません。
 運用収入等に応じて発生する付加給付金がある場合は、一定の要件を満たすことで支給されます。

2-3.小規模企業共済の加入資格があるが解約(解約手当金)

個人事業主から法人成りして、法人の加入資格は満たしているものの解約するという場合は、解約手当金が支払われます。

解約手当金は、納付期間が20年(240か月)未満の場合、元本割れすることに注意が必要です。

掛金納付月数
支給率
支給率例
12か月~83か月80%
84か月~245か月84か月 80.50%
以降、半年ごとに0.75ポイントずつ支給率が増加
例:
120か月 85.00%
240か月 100.00%
246か月~720か月720か月まで、6か月ごとに0.25ポイントずつ支給率が増加例:
246か月 100.25%
720か月以上は、120.00%

※掛金納付月数が12か月未満の場合は掛け捨てとなり、解約手当金を受け取ることはできません。


3.法人成り後に小規模企業共済を継続するメリット

法人成り後も小規模企業共済を継続した場合、以下のようなメリットがあります。

  • 所得控除できる
  • 掛金を増減できる
  • 共済金の受け取りパターンを選択できる
  • 貸付制度を利用できる
  • 付加共済金を受け取れる可能性がある
  • 銀行の普通預金よりも利回りが高い傾向がある

それぞれのメリットをくわしくみていきましょう。

3-1.所得控除できる

小規模企業共済は「小規模企業共済等掛金控除」として、全額が個人の所得控除の対象となります。
1,000円~70,000円までの範囲で、500円単位で掛金を設定できるため、老後資金に備えながら柔軟な節税対策が可能です。

3-2.掛金を増減できる

掛金は、1,000円から70,000円までの範囲内(500円単位)で状況に応じて増額・減額ができ、経済的な余裕ができてきたら増額する、厳しい状況の時は減額するといったように、都合に合わせて変更することができます。

掛金を納付し続けることが困難となった場合は、掛金の納付を一時的に止める「掛止め」が可能です。ただし災害や、所得がないなどの理由により、掛金の納付が困難と認められた場合に限られています。

3-3.共済金の受け取りパターンを選択できる

小規模企業共済の共済金の受け取り方法には、「一括」「分割」「一括と分割の併用」の3つがあり、受け取り方法を選択するには条件があります。

一括
分割
一括と分割の併用
共済金等の受取方法一括で受け取る期間は10年もしくは15年の選択で、年6回(奇数月)の受け取り一括と、10年もしくは15年の選択で年6回(奇数月)の分割受け取りの併用
選択の要件
なし
・共済金Aまたは共済金Bである
・請求事由が共済契約者の死亡ではない
・請求事由が発生した日に60歳以上である
共済金額の要件
なし
 300万円以上
 330万円以上
※一括部分:30万円以上
分割部分:300万円以上
税法上の取り扱い退職所得扱い公的年金等の雑所得扱い一括分:退職所得扱い
分割分:公的年金等の雑所得扱い

3-4.貸付制度を利用できる

小規模企業共済にはさまざまな貸付制度があります。
それぞれ利用の要件はありますが、比較的低金利で貸付を受けることが可能です。

  • 一般貸付
  • 緊急経営安定貸付
  • 傷病災害時貸付
  • 福祉対応貸付
  • 創業転業時・新規事業展開等貸付
  • 事業承継貸付
  • 廃業準備貸付

※借入金の返済が滞った場合は、延滞利子が発生します。

3-5.付加共済金を受け取れる可能性がある

小規模企業共済では基本共済金に加え、付加共済金が加算されることがあります。

付加共済金は基本共済金に上乗せされるもので、脱退するときに一括して受け取ります。ただし、年度ごとの運用収入等に応じて経済産業大臣が支給率を定める共済金なので、必ずしも加算されるわけではありません。

なお、解約手当金は加算の対象にならないので、注意が必要です。

3-6.銀行の普通預金よりも利回りが高い傾向がある

現在の小規模企業共済の予定利率は、1%(令和5年9月1日現在)です。銀行の定期預金等と比較しても、高い利率となっています。


4.法人成り後に小規模企業共済を継続するデメリット

法人成り後に小規模企業共済を継続することは、必ずしも良いことばかりとは限りません。
ここでは小規模企業共済を継続するデメリットについて紹介します。

  • 事業上の損金や必要経費には算入できない
  • 加入期間が短い場合は掛け捨てのリスクがある
  • 加入期間が20年未満で任意解約すると元本割れする
  • 共済金の受け取り時は所得税が課税される

4-1.事業上の損金や必要経費には算入できない

小規模企業共済の掛金は、あくまでも個人事業主や会社役員などの個人が加入するものです。そのため、個人の所得から所得控除は可能ですが、法人としての経費や損金にはなりません。

4-2.加入期間が短い場合は掛け捨てのリスクがある

請求事由が発生しても、加入期間が短い場合は掛け捨てになるリスクがあります。
以下の場合は、掛け捨てとなります。

  • 6か月未満……共済金A、共済金Bは掛け捨て
  • 12か月未満……準共済金、解約手当金は掛け捨て

4-3.加入期間が20年未満で任意解約をすると元本割れする

第2章の解約手当金の項目で説明したとおり、共済契約者の自己都合による任意解約や、掛金の滞納などによる機構解約、法人成り後も継続が可能であるにもかかわらず解約するなど、加入期間20年未満で小規模企業共済を解約した場合、受け取れる共済金は元本割れとなります。

4-4.共済金の受け取り時は所得税が課税される

小規模企業共済に加入することで、その掛金を「小規模企業共済等掛金控除」として個人の所得から控除できます。

一方で、共済金を受け取るときは一般の所得税よりは優遇されるものの、一括や分割、一括と分割の併用など受け取り方に応じて、退職所得または公的年金等の雑所得として所得税が課税されます。


5.法人成り後に小規模企業共済を継続する条件とは?

個人事業主時代に加入していた小規模企業共済であっても、法人成り後、所定の条件を満たせば共済を継続できます。
ただし継続するためには、法人成り後の法人や本人の地位が条件を満たしていることが必要です。

5-1.個人事業を完全に法人成りする

小規模企業共済を継続(同一人通算)するためには、個人事業を完全に法人成りすることが必要です。

個人事業を残して法人成りする場合は、個人事業主として小規模企業共済を継続するか、個人事業の契約を解約し新たに法人として小規模企業共済に加入することになります。

なお、個人事業主と法人役員の二重で加入することはできません。

5-2.個人事業主だった人が、設立した法人の役員として登記している

個人事業主だった人が、会社役員等として登記していることが必要です。

会社役員等としては、例えば以下のようなものが挙げられます。

  • ・株式会社、有限会社、特例有限会社の取締役や監査役
  • ・合名会社、合資会社、合同会社の業務執行社員
  • ・企業組合、協業組合の理事、監事
  • ・農事組合法人の理事、監事(非営利を主とするものを除く)
  • ・士業法人の業務執行社員

5-3.従業員数が所定の条件以下である

法人成り後、法人の役員として小規模企業共済を継続するためには、常時使用する従業員の数が所定の条件以下であることが必要となります。その条件は以下の通りです

  • 会社役員の場合
事業の種別
従業員数の制限
建設業、製造業、運輸業、不動産業、農業、サービス業(宿泊業、娯楽業に限る)等常時使用する従業員の数が20人以下
商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業、娯楽業を除く)常時使用する従業員の数が5人以下
  • 組合等・士業法人の役員の場合
法人の種別
従業員数の制限
企業組合
事業に従事する組合員の数が20人以下
協業組合
常時使用する従業員の数が20人以下
農業の経営を主として行っている農事組合法人
常時使用する従業員の数が20人以下
弁護士法人、税理士法人等の士業法人常時使用する従業員の数が5人以下

※「常時使用する従業員」とは、正社員として雇用されている人のこと。
法人(会社など)の役員、家族従業員、パート従業員、アルバイトなど臨時で期間を定めて雇用している人は除く。

※小規模企業共済へ加入後に所定の人数を超えた場合も、加入を継続することができます。


6.法人成り後に小規模企業共済を継続する手続き

個人事業主が法人成り後、法人の役員として小規模企業共済を引き継ぐ際は、中小機構と業務委託契約を締結している団体等(委託団体)や、金融機関の本支店(代理店)の窓口で手続きが必要です。

なお、同一人通算の申出ができるのは、事由発生から1年以内となるので注意しましょう。

手続きには、以下の書類を提出します。

  • 個人事業の廃業届の控え(写し)
  • 履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)
    ※会社等の役員への就任が明らかなもの
  • 納付月数通算申出書兼契約申込書(同一人通算用)

委託機関で必要書類の確認後、委託機関を通じて中小企業基盤整備機構に提出、もしくは郵送します。
手続きが完了すると、中小機構から「納付月数通算(同一人)手続き完了のお知らせ」と「契約内容確認書」が送付されてきます。


7.法人成り後の小規模企業共済の取り扱いは、辻・本郷 税理士法人にご相談ください

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8.まとめ

本記事では、法人成りをした場合の小規模企業共済の取り扱いについて解説しました。
最後にポイントを整理しましょう。

  • 法人成りした場合の小規模企業共済の取り扱いには、3つのパターンがあります。
  • 小規模企業共済を継続
  • 小規模企業共済の加入資格がなくなり解約(準共済金を受け取る)
  • 小規模企業共済の加入資格はあるが解約(解約手当金を受け取る)
  • 法人成り後に小規模企業共済を継続する場合、6つのメリットが考えられます。
  • 所得控除できる
  • 掛金を増減できる
  • 共済金の受け取りパターンを選択できる
  • 貸付制度を利用できる
  • 付加共済金が受け取れる可能性がある
  • 銀行の普通預金よりも利回りが高い傾向がある
  • 法人成り後に小規模企業共済を継続した場合、4つのデメリットが考えられます。
  • 事業上の損金や必要経費には算入できない
  • 加入期間が短い場合は掛け捨てのリスクがある
  • 加入期間が20年未満で任意解約すると元本割れする
  • 共済金の受け取り時は、所得税が課税される
  • 法人成り後に小規模企業共済を継続するための条件は、3つあります。
  • 個人事業を完全に法人成りする
  • 個人事業主だった人が、設立した法人の役員として登記している

  • 従業員数が所定の条件以下である

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