株式会社を設立したいと思ったときに、前提として条件を満たしているのか気になるかもしれません。株式会社設立の条件は以前よりは緩和されてきていますが、それでも行うべき準備や手続きは少なくありません。本記事では、株式会社設立にあたりクリアすべき条件と必須の手続き等をまとめてご紹介します。
目次
1.株式会社の設立条件13点
株式会社設立の条件13点の概要は次の通りです。
項目 | 条件 | |
1 | 資本金 | ・会社法では設立時の資本金は最低1円と定められている(2006年の法改正により最低資本金制度が廃止) |
・ただし、実際に1円で会社を設立しても、資金がないと運営は困難 ・設立条件としての「最低資本金」と、実際に必要な「運転資金」は区別すべきである | ||
2 | 人数 | ・株式会社は1人でも設立可能 |
・ただし、機関や組織など、次の要素にも留意する 発起人/出資者/取締役会/取締役(代表取締役)/役員/従業員数 | ||
3 | 年齢 |
|
・ただし、会社設立時には印鑑証明書が必要 ・15歳未満の場合印鑑登録ができないため、実務的には会社を設立できる年齢は15歳以上といえる | ||
4 | 会社名 | ・会社名を決めなければならない |
・ただし同一住所で同じ名前の会社を新たに設立することはできない ・類似商号の不正使用禁止(会社と誤認させる名称等の使用の禁止)にも注意が必要 | ||
5 | 住所 | ・住所を定めなければならない |
6 | 設立費用 | ・次のような費用がかかる
|
7 | 実印 | ・次の実印が必要 発起人や取締役の実印(印鑑証明書) 法人の実印(印鑑届出書) |
8 | 事業計画書 | ・補助金や助成金を受けたいとき、もしくは創業融資を受けたい場合はほぼ必須 |
9 | 定款 | ・定款は会社設立登記において必要な書類 |
・絶対的記載事項がないと定款が無効になる | ||
10 | 公証人の認証 | ・公証役場での認証 |
・定款の正当性を証明するために必要 | ||
11 | 資本金の払い込み | ・出資金(資本金)の払込証明書は会社設立登記において必要な書類 |
12 | 会社設立登記 | ・法人登記をすることが義務付けられている |
13 | 許認可 | ・行政機関の許認可を受けなければ開業できない一定の業種については必要 |
この後、13点の条件について個別に解説します。なお、13点の中には特定の状況のときのみ必要となる条件も含まれています。
1-1.資本金
会社法上では、設立時の資本金は「最低1円」としてます。2006年に新しく会社法が成立し、最低資本金の制度が撤廃されたためです。
しかし、もし本当に1円で株式会社を設立したとしても、まったく資本金がなければ運営は行き詰ってしまうでしょう。というのも通常、賃料や光熱費といった固定費は当初から発生しますし、利益を得る前に商品や材料等を仕入れなければなりません。必要な運転資金は事業や業種により様々ですが、目安として3カ月程度運営できるだけの費用は用意しておくといいでしょう。
また、資本金は企業の体力を計る重要な指標です。資本金があることで、融資や大口の取引を受注できる可能性が高まります。
そのため、設立条件としての「資本金(最低1円)」と、実際の事業運営に必要な「運転資金」を混同しないようにします。
1-2.人数
結論として、株式会社は1人でも設立可能です。ただし、設立時には機関や組織などの要素にも留意が必要ですので、会社法上の条件等を個別にご紹介します。
・発起人
・出資者
・取締役/代表取締役
・役員
・従業員
1-2-1.発起人
発起人の数については特に条件は定められておらず、「1人以上」であれば問題ありません。なお、発起人になるための条件も定められていません。そのため、未成年、法人、外国人なども発起人になることが可能です。
ただし、発起人は少なくとも1株以上の株式を引き受けなければなりません。1株以上に相当する金額を出資する必要がある、ということです。発起人を依頼する際は、その後の株式引き受けまでを考慮すべきでしょう。
1-2-2.出資者
設立時は「最低1円」の資本金が必要であるため、資本金を出資する「出資者」は必須です。ただし、発起人等とは別に、単独の出資者を立てる必要はありません。発起人や取締役が出資をすることが可能であるため、「出資者=発起人=取締役」といったことも多いです。
もちろん、出資のみを行う出資者を用意することも可能です。その場合の発起人との違いは、出資者は設立には関わらず資金提供のみを行う点です。また、出資者は、会社設立後にリターンとして株式を得ることが多いです。その場合は出資者は株主となります。
1-2-3.取締役会
取締役会とは、会社の重要事項を決定するために設置される機関のことですが、全ての会社に設置義務があるわけではありません。公開会社や監査役会設置会社、監査等委員会設置会社など所定の会社以外は設置しなくとも問題ないのです。
任意に取締役会を設置することは可能ですが、その際は3名以上の取締役が必要です。
【公開会社とは】
端的に言えば、自由に株式を譲渡できる株式会社のことです。ここでいう「自由」とは、定款に譲渡を制限する記載がないことを指すので、上場会社との意味ではありません。
一方で株式譲渡制限会社とは、株式の譲渡に関して会社の承認が必要であることを定款で定めている会社のことです。
1-2-4.取締役/代表取締役
会社設立において取締役と代表取締役は取り扱いが異なります。
- 取締役
非公開会社の場合、取締役の数は1人以上必要です。
- 代表取締役
取締役会を置かない会社では代表取締役の選定は任意ですので、「0人」との選択も可能です。また、代表取締役を選任する場合の人数の条件もありません。1人でも問題ありませんし、2人以上を代表取締役とすることもできます。
【取締役と代表取締役との違い】
代表取締役は会社の最高責任者であり、株式会社を代表する権限を持ちます。取締役との違いは代表権を有しているかどうかです。ただし、代表取締役の選任は取締役から行わなくてはなりません。
1-2-5.役員
会社法における役員とは、「取締役」「監査役」「会計参与」などの機関のことです。代表取締役と取締役については上述のとおりですが、残りの2つ(「監査役」「会計参与」)については、非公開会社であれば原則設置義務はありません。ただし、非公開会社でも取締役会を設置する場合は監査役の設置義務が生じるので注意します。
1-2-6.従業員の数
雇用する従業員の数も、特に条件はありません。そのため、1人で会社を設立し、1人だけで事業を行っても問題ありません。
1-3.年齢
会社法上は、年齢に関する条件はありません。ただし、会社設立時には後述の通り印鑑証明書が必要です。15歳未満の場合印鑑登録ができないため、実務的には会社を設立できる年齢は15歳以上といえるでしょう。
また、15歳以上でも、未成年の場合は法定代理人の同意が必要です。例えば親権者が法定代理人の場合、会社設立時の通常の必要書類に加えて、親権者とのつながりがわかる戸籍謄本や親権者の同意書も用意
1-4.会社名
株式会社設立においては会社名を決めなければなりません。しかし同じ会社名の会社が既に存在する場合に、同一住所で同じ名前の会社を新たに設立することはできません。
賃貸オフィス等に事務所を構える場合、同じ住所に同一の会社があることは少ないでしょう。しかし、同一住所で多くの会社が入る可能性があるバーチャルオフィスやシェアオフィスを利用するような場合には、注意が必要です。
【不正競争目的に対する規制にも注意する】
同一住所でないなら他社と名前が被ってもよい分けではありません。というのも、会社法7-8条では類似商号の不正使用禁止(会社と誤認させる名称等の使用の禁止)が明記されており、他社と誤認されるおそれのある名称・商号を使用してはならないとしているからです。
例えば有名企業と類似の会社名を名乗り、消費者等が2社を混同した場合、その有名会社から営業停止や損害賠償をなどを要求されるリスクがあります。
出典
e-Gov 法令検索「会社法」
1-5.会社の住所
株式会社の設立では、住所を定めなければなりません。住所に関する条件はなく、賃貸オフィス、自宅、レンタルオフィスなど、様々な選択肢から住所を選べます。
ただし、居住用マンション等の場合は物件の管理規約で「事業用」の利用ができないと定められている可能性があります。
1-6.設立費用
株式会社の設立手続を行う上で必ず発生する費用があります。それぞれ詳細は後述しますが、一般的には次のような費用です。
- 実印の作成費
会社設立時の必要書類に印鑑証明書が必要なため、法人の実印を作成しなければなりません。作成費は依頼する業者ごとに異なりますが、2,000円~30,000円程度と幅があります。
- 定款の印紙代
印紙代は4万円です。
ただし、定款を紙で作成したときのみかかる費用で、電子定款の場合は不要です。
- 定款の謄本手数料
手数料は1枚につき250円です。ページごとに手数料がかかるので、費用は定款のページ数で変わります。
- 定款認証の手数料
設立時の資本金額によって変わります。
【資本金ごとの定款認証の手数料】
資本金の額が100万円未満である場合 | 3万円 |
資本金の額が100万円以上300万円未満である場合 | 4万円 |
資本金の額が300万円以上である場合 | 5万円 |
- 会社設立登記の登録免許税
株式会社設立の登録免許税は、下記のうち高いほうの金額です。
・資本金×0.7%
・15万円の高い方の金額
1-7.実印(印鑑証明書/印鑑届出書)
株式会社の設立登記では、個人と法人の実印が必要です。実印とは自治体等の役所で印鑑登録を行った印鑑のことです。個人と法人、それぞれの実印の違いは次の通りです。
概要 | |
個人の実印 | 登録された印鑑(実印)が本人のものであると公的に証明する書類で、市区町村等が発行 |
法人の実印 | 会社設立時に、実印として法務局で登録する(印鑑届出書を提出) |
1-7-1.個人の実印(印鑑証明書)が必要な場面
株式会社設立においては次の場面において発起人や取締役の印鑑証明書が必要です。
- 定款の認証を受けるとき 発起人全員の印鑑証明書
- 株式会社設立登記のとき 取締役全員の印鑑証明書
※ただし、取締役会を置く場合は、代表取締役の印鑑証明書のみで可
1-7-2.法人の実印(印鑑届出書)が必要な場面
株式会社設立登記の際に「印鑑届出書」を提出することで、会社の実印を法務局に登録できます。会社設立後も、法人口座開設や株式発行時、不動産売買契約を結ぶといった、重要な場面で実印が必要です。
1-8.事業計画書
事業計画書は法律で作成が定められているわけではありませんが、国や自治体の補助金や助成金を受けたいとき、もしくは創業融資を受けたい場合はほぼ必須の書類です。事業計画書が補助金・助成金の交付、融資の可否と融資額を判断するために必要な要素だからです。
補助金等を考えていない場合は必須条件ではないとはいえ、事業計画書は設立後の運営の安定化につながるので、出来る限り作成する方向で考えるといいでしょう。
なお、基本的に事業計画書に決まった書式はありません。創業動機や目的、事業運営の見通しや収支、必要資金などを、分かりやすく記載します。
1-9.定款
定款は会社設立登記における必要書類のひとつです。会社の目的や資本金といった基本情報や規則などが記載された、会社運営のルールブックといえるものです。定款の内容は大きく次の3つです。
・絶対的記載事項 必ず記載しなければならない項目
・相対的記載事項 定款に記載がないと有効にならない項目
・任意的記載事項 会社が任意に定められる項目
絶対的記載事項
絶対的記載事項とは、定款において必ず記載しなければならない項目です。記載がなければ定款が無効になってしまうため、漏れなく記載することが会社設立の条件です。
絶対的記載事項は、次の5点が該当します。
①商号
②目的
③本店の所在地
④設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
⑤発起人の氏名又は名称及び住所
発行可能株式総数は、絶対的記載事項には含まれませんが、設立登記申請時までに定款に定める、とされています。そのため、上記に加え「発行可能株式総数」も合わせて記載するのが一般的です。
相対的記載事項
相対的記載事項とは、定款に記載がないと有効にならない項目です。「決めない」ことができますし、決めた項目の記載を忘れたとしても、定款が無効になるようなことはありません。ただし、トラブルや混乱のもとになりやすい項目ばかりなので、該当の項目について決めた場合は定款に記載することをおすすめします。
相対的記載事項の主なものは次の通りです。
・設立時における現物出資の価格と割り当てる株式数
・株式の譲渡制限に関する定め
・株券発行の定め
・取締役会の設置について
・監査役の設置について
・役員の任期の伸長
・株主総会、取締役会および監査役会の招集通知期間短縮
任意的記載事項
上記2つ以外の記載事項で、定款以外で規定することも可能な項目です。
例えば、任意的記載事項には次のような項目があります。
・株式の再発行手続き
・定時株主総会の招集時期
・取締役会の人数、招集権者
・事業年度
1-10.公証人の認証
作成した定款は、公証役場での認証が必要です。いわゆる「定款認証」と呼ばれるもので、これによって定款の正当性が証明できるため、株式会社の設立手続きにおいて必須の手続きです。
定款認証の流れは次の通りです。
- 定款の作成
- 定款の事前チェック
- 会社の本店所在地を管轄する公証役場にて予約を取る
- 公証役場に定款、必要書類、手数料を提出して認証を受ける
なお、電子定款ならオンライン申請も可能です。
【定款の事前チェックとは】
認証を受ける前に、公証人のチェックを受けられる公証役場が多いです。認証を受ける前にチェックしてもらうと、スムーズに認証が受けられるでしょう。電子定款でオンライン申請をするときもメールで事前チェックを受けられます。
なお、仮に認証当日に定款に不備があっても、軽微なものであればその場で訂正し、公証を受けることが可能です。
【定款認証の必要書類】
主な必要書類は次の通りです。
・定款
「会社保管用」「法務局提出用」「公証役場保管用」の3通を用意します。
・発起人全員の印鑑証明書と実印
上述の通り定款の認証を受けるときには、発起人全員の印鑑証明書と実印が必要です。
また、もし発起人に法人が含まれている場合には、会社登記簿謄本と法人代表者の印鑑証明書の添付が必要です。
・実質的支配者となるべき者の申告書
実質的支配者となるべき者の本人確認書類も申告書に添付します。
・委任状
代理人が認証手続きを行う場合は、委任状が必要です。代理人が認証を行う場合は、代理人の本人確認書類も必要です。
1-11.資本金の払い込み
株式会社設立登記においては、資本金の払い込みが必須です。さらに、会社設立登記では出資金(資本金)の払込証明書が必要書類となっています。払い込みは、発起人の名前で行います。会社設立前の段階では法人口座がないので、発起人の個人口座で問題ありません。
1-11-1.資本金の払い込みを証明する書類
払込証明書を作成します。払込証明書のフォーマットは定められていませんが、「払い込み金額」「払い込み株数」など所定の項目を記載します。また、法人の実印も押印します。
さらに、次の情報をコピー、もしくはプリントアウトして綴じます。
- 通帳の場合
「表紙」「表紙裏」「振り込みの印字されているページ」をコピーします。 - インターネットバンキングの場合
銀行名、支店名、預金種別、口座番号、口座名義人、振り込み内容、などの情報が確認できる箇所をプリントアウトします。
1-11-2.資本金払い込み時の注意点
次のような点に注意します。
- 定款作成日以降に払い込みをすること
会社設立のための出資金であることを明らかにするためです。 - もともと口座にあった金額を出資金とすることはできない
例えば出資金100万円の場合、もともと口座に10万円あるので、不足の90万円だけを払い込む、といった方法では「100万円」の出資とは認められません。一度10万円を引き出して「100万円」を払い込みます。 - 発起人が複数いる場合は個別に払い込む
各発起人が、払い込みを行います。例えば、2人の発起人がそれぞれ100万円ずつ出資する場合に、まとめて200万円を払い込むことはできません。
1-12.会社設立登記
株式会社の設立では法人登記をすることが義務付けられています。登記によって法人格を取得することで、法的に会社の存在が認められるのです。
会社設立登記の方法は、主に3つです。
- 法務局の窓口で申請
窓口で書類を提出します。対面であるため、申請書等の不明点を直接確認できるのがメリットです。提出後、申請内容に不備ながなければ、申請から7~10日ほどで登記が完了します。
- 郵送で申請
郵送で書類を提出します。法務局に出向く必要がないのがメリットですが、提出時の不備を確認できません。申請内容に不備ながなければ、申請から7~10日ほどで登記が完了します。
- オンライン申請
オンラインで書類を提出します。不備がなく、かつ一定の条件を満たせば24時間以内に登記が完了します。
申請には、法務局が提供する「登記・供託オンライン申請システム 登記ねっと 供託ねっと」から行えます。同サイトから、専用ソフトをダウンロードします。
【会社設立登記の主な必要書類】
・設立登記申請書
・登録免許税の納付用台紙
・定款(謄本)
・取締役の印鑑証明書
・出資金(資本金)の払込証明書
・印鑑届書
・登記すべき事項を記録した別紙(または記録媒体)
※定款に書かれていないことを補足するための書類
・発起人決定書
※定款で本店所在地を番地まで含めて記載している場合は不要
・代表取締役/監査役役の就任承諾書
※代表取締役の就任承諾書は取締役が1人だけの場合は不要。また、監査役役の就任承諾は、監査役を設置しない場合は不要
1-13.許認可
基本的に会社は定款の目的に沿って運営できますが、一定の業種については行政機関の許認可を受けなければ開業できません。
代表的な許認可が必要な業種と申請先をいくつかご紹介します。
・建設業 国土交通大臣又は都道府県知事
・飲食業 保健所
・酒類販売業 税務署
・質屋営業 公安委員会
・警備業 警察署
・介護事業 都道府県または市町村
許認可の条件は個別に異なります。例えば飲食業では食品衛生責任者を置くことが条件となりますし、介護事業では都道府県または市町村ごとの人員基準や施設基準があります。
開業する業種が許認可を必要とするときは、必要な条件を把握し、滞りなく開業できるようにしておきます。
2.株式会社設立のバックアップなら、辻・本郷 税理士法人をご検討ください
会社設立登記については、司法書士に依頼する方が多いかもしれません。また定款の作成や許認可については行政書士にも依頼可能です。
ただし、設立時の融資、会社設立後の月次・決算業務、もしくは税務調査対応等まで考えている場合は、法人設立登記を扱っている税理士のサービスを活用することもおすすめです。登記申請は司法書士に依頼することになるでしょうが、司法書士と連携している税理士事務所を選択すれば問題ありません。設立後の会社運営まで考えて、設立時のパートナーを考えましょう。
3.まとめ
会社を正式に設立させるためは、条件にそって適切に行う必要があります。条件が「特にない」ものも含めて調べることが必要です。条件を満たし、スムーズな株式会社設立を実現しましょう。また、条件は会社法や制度変更によっても変わることがあるので、最新の情報で会社設立を行います。必要に応じて専門家のバックアップを受けることをおすすめします。