現在行っている事業や、将来的に展開していきたい事業に対してはしっかりとした展望を持っていても、会社を設立する際に、その事業をどのように定款(ていかん)の事業目的としてまとめればいいかわからないという方は、案外多いと思います。
会社の設立時に必要な定款の事業目的は、取引先や金融機関が取引や融資をするための判断材料にもなる重要な事項で、その書き方によっては取引先や金融機関からの信用を得られにくくなる可能性もあります。
この記事では、会社設立時の定款の事業目的の書き方を、業種別の記載例とあわせてわかりやすく解説していきます。
目次
1.事業目的は会社設立時の定款に必要な記載事項
会社を設立するためには沢山の書類を作成し準備しなければなりませんが、その中で一番手間がかかるのが会社を運営する上での基本的なルールを定めた定款の作成です。定款の事業目的は、絶対的記載事項のひとつで、定款に必ず記載しておかなければなりません。
定款の事業目的では、その会社がどのような事業を行うのかを明示し、会社は定款に定めた事業目的以外の事業を行うことはできません。定款の事業目的は、取引先や金融機関が取引や融資をするための判断材料にもなる重要な事項のため、事業内容が分かりやすく伝わるよう、過不足なく記載する必要があります。
2.事業目的を書くときに満たすべき3つの要素
定款の事業目的を書く際には、取引先や金融機関からの信用を得るために満たすべき以下3つの要素があります。ひとつずつ見ていきましょう。
2-1.適法性
適法性とは、会社設立の事業目的が違法ではないことを指します。例えば、窃盗や強盗、詐欺などの犯罪行為、違法薬物の輸入などは事業目的として認められません。また、弁護士や税理士のような資格が必要な事業を資格なしに事業目的とすることはできません。
2-2.営利性
営利性とは、会社設立の事業目的が営利目的になっていることを指します。例えば、寄付やボランティアなどの非営利活動は事業目的にすることができません。ただし、営利目的の事業内容が主としてあれば、非営利目的の活動を併記することは可能です。
2-3.明確性
明確性とは、会社設立の事業目的が誰が見てもわかるよう明確になっていることを指します。例えば、専門用語や業界用語など、一般の人が理解しにくい語句は事業目的に使用できません。また、アルファベットのみの略語やカタカナ表現の外来語は、日本語に書き換えたり説明を加えたりする必要があります。
3.業種別事業目的記載例
会社設立時の定款の事業目的にはどんなことを書けばいいのかイメージしやすいように、まずは業種別の事業目的の記載例を見ていきましょう。
下線が引いてあるものは、その事業を行うために「許認可の要件に適した事業目的として定款に記載しておかなければならない」項目です。詳しくは4章で解説します。
業種 | 事業目的の例 |
IT、インターネット関連 |
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職業紹介事業・労働者派遣業 |
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教育・学習支援 |
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コンサルティング |
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レジャー産業 |
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広告 |
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出版 |
・編集代行業務 |
飲食業 |
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旅館業・ホテル業 |
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旅行業 |
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理容業 |
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美容業 |
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介護事業 |
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保険 |
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投資 |
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電気・ガス・水道 |
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建設業 |
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不動産売買・賃貸仲介業 |
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製造業 |
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卸業・小売業 |
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古物商 |
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産業廃棄物運搬業・処理業 |
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貨物運送業 |
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4.事業目的の書き方のポイント6つ
ここからは、定款の事業目的を書く際のポイントについて見ていきます。ポイントは6つあります。
4-1.許認可要件を満たすものを書く
業種によって、国や地方自治体の許認可がないと行えない事業があります。許認可が必要な事業を行う際には、許認可の要件に適した事業目的を定款に記載しておかなければいけません。以下は、許認可が必要な事業と定款に記載しなければならない事業目的の例です。
業種 | 定款に記載しなければならない事業目的の例 |
職業紹介事業・労働者派遣業 | 有料職業紹介事業 労働者派遣事業 |
飲食業 | 飲食店の経営 |
旅館業・ホテル業 | ホテル、旅館その他宿泊施設の経営 |
旅行業 | 旅行業法に基づく旅行業 旅行業法に基づく旅行業者代理業 |
理容業 | 理容業 理容室の経営 |
美容業 | 美容業 美容室の経営 |
介護事業 |
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建設業 | 建設業 土木建築工事 |
不動産売買・賃貸仲介業 | 不動産の売買、賃貸、管理及びそれらの仲介 |
古物商 | 古物営業法に基づく古物商 |
産業廃棄物運搬業・処理業 | 産業廃棄物処理業 産業廃棄物収集運搬業 産業廃棄物処分業 |
貨物運送業 | 一般貨物自動車運送事業 |
4-2.将来予定している事業も忘れずに書く
定款の事業目的には、起業後に主として行う事業のほかに、将来的に行う予定の事業も記載しておくことができます。定款の事業目的を変更する変更登記には手間と費用がかかります。いずれやりたいと考えている事業がある場合にはあらかじめ記載しておくようにしましょう。
4-3.「前各号に付帯関連する一切の事業」を入れる
定款の事業目的の最後には、「前各号に付帯関連する一切の事業」と記載します。「前各号に付帯関連する一切の事業」と記載し、事業目的の内容に幅を持たせおくことによって、定款の事業目的に記載していない事業でも関連性があれば事業として行うことが可能になります。事業目的に記載もれがあった場合のカバーにもなります。
4-4.事業目的の数に制限はないが多くても5~10個位を目安に書く
記載できる事業目的の数には制限はありません。しかし、あまり多く事業目的を記載すると何を本業としている会社なのか分かりにくくなり、取引先から不信感をもたれたり、融資を受ける場合の判断材料として不利に働く恐れがあります。目安として、主として行う事業と今後5年以内に実現できそうな事業を5〜10個くらいに絞り、書きすぎないようにしましょう。
4-5.同業他社の定款も参考にする
定款の事業目的を記載する際には、同業他社の事業目的を確認しておくと、参考になったり、記載漏れがないかの気づきにもつながります。同業他社の定款は、会社のホームページに掲載されていたり、法務局で手数料(登記簿謄本600円、登記事項要約書450円)を支払えば、誰でも登記事項証明書で確認することができます。
5.事業目的にない事業を行ったらどうなる?
ここまで、定款の事業目的を記載する際に満たさなければいけない要素や書き方のポイントを見てきました。では実際に定款の事業目的に記載されていない事業を行った場合、何かリスクはあるのでしょうか。
5-1.刑事罰や行政罰を課せられることはない
結論から言えば、定款の事業目的に記載していない事業を会社が行っても、刑事罰や行政罰を課せられることはありません。しかし、事業目的と会社に事業の実態が異なる場合、取引先や金融機関の信用を失い、取引ができなかったり、融資を受けられなかったりするリスクがあります。
5-2.事業目的の変更や追加をしたら変更登記を行う
定款の事業目的に記載していない事業を行う場合には、法務局での変更登記手続きが必要です。事業目的の変更は変更登記申請書の「登記すべき事項」に、変更する部分の目的だけでなく、全ての事業目的をあらためて記載します。変更登記の際には登録免許税30,000円もかかりますので、事業目的を変更する際は慎重に判断しましょう。
6.お困りの際は辻・本郷 税理士法人にご相談を
定款の事業目的の書き方に迷ったら、思い切ってプロのサポートを受けみるのはいかがでしょうか。特に、許認可が必要な業種の事業目的では迷うことや不安に思うことも多いでしょう。
辻・本郷 税理士法人では、同業他社の例や、将来的行いたいと思っている事業も踏まえた的確なアドバイスが受けられます。
7.まとめ
会社設立時に作成する定款の事業目的は、会社にとって取引先や金融機関の信用を得る上でとても大切なものです。適法性・営利性・明確性の3つのポイントをしっかり押さえて、自社に適切な事業目的を設定しましょう。